新年早々、常盤会よりメルマガのコラムへ寄稿されたしとの連絡を受けました。
時を同じくして私の所属する愛知カントリー倶楽部より、今年古稀を迎えられおめでとう、ついては数項目のアンケートに協力せよとの案内がありました。
　そのうちの一つに「これまでのゴルフを振り返って、そしてこれからは？」とあり、それに対して私は、「若いうちは全力で。年を取ったら楽しむゴルフをと考えていたが、これは大きな間違いであった。後悔先に立たずである。若いときと同様には所詮無理だが、それなりのゴルフができなければ楽しむどころか嫌になり健康にも良くない。年相応のゴルフスコアが伴わないと感じたときには、さっとゴルフを止めます。その時には皆さんに感謝、さようなら！」と。
　もう一つの質問に、「私の健康法は？」があり。それには、「何事にも全力で」と回答しました。
　五十歳を過ぎてから、欧米の名門ゴルフ場めぐりを続けています。そんな体験から、2006年12月末、日本文化出版より『オーガスタのルーツは南アフリカにあり－世界のゴルフ史を変えたボーア戦争－』を上梓しました。
　今や世界の四大タイトルの一つである–マスターズ・トーナメントの会場になっている、オーガスタ・ナショナル・ゴルフ・クラブの歴史と意義に関する本です。
　ゴルフ・フアンなら誰もが知るゴルフの聖人ボビー・ジョーンズ（1930年にアマチュアでありながら、全米オープン、全米アマ、全英オープン、全英アマの四大タイトルを独占、俗に言うグランド・スラム達成者）と、彼の友人クリフォード・ロバーツと、この本の主人公スコットランド人のゴルフ場デザイナー、アリスター・マッケンジーの三人が作ったのが、オーガスタ・ナショナル・ゴルフ・クラブなのです。
ゴルフ場には、大別して英国式リンクススタイルのコースと、アメリカ発の近代コースの二つ。前者は全英オープンでおなじみのセント・アンドリュースに代表されるラフが深く、ポット・バンカーがあり、弱いものいじめのコースです。うまくいった時は面白いが、二度とプレーをしたくないと打ちのめされるときが多いコースでもあります。
　ゴルフ全盛期のイギリスで、1900年代に入って、男、女、上手、下手、老若を問わずもっと楽しめるゴルフ場はないものかの大衆の意見が台頭してきました。そうした意見に答えたのが、主人公のマッケンジーで、1920年、これからのゴルフ場はかくあるべきだという本「GOLF　ARCHITECTURE（ゴルフ設計論）」を上梓したのです。
　この本がきっかけとなり近代コースの究極のモデルとなったのが、オーガスタ・ナショナル・ゴルフ・クラブなのです。
　マッケンジーはオーガスタの設計コンセプトを残していません。オーガスタは1933年にオープン、その翌年からマスターズが開催され、今日に至っているが、マッケンジーは1934年にこの世を去っているからです。しかしマッケンジーは随所で南アフリカのボーア戦争（1899-1902）から多くを学び、その体験から得た戦略、戦術をオーガスタに取り入れたと述べているのです。ご存知の南アフリカは、世界一のダイヤモンド・金の産地です。その利権を争い、先に移住したオランダ人と後から移住したイギリス人との戦争です。
　ケンブリッジ大学医学部を卒業したマッケンジーは、29歳のときイギリス軍軍医として従軍。ビクトリア女王の末期ではあったが戦力は圧倒的にイギリス軍が強かったはずが、弱いはずのオランダ軍（ボーア人）にいじめられ、その原因は何かを分析しその要因をコース設計に取り入れたのです。
　オーガスタが出来上がったとき、ニューヨークタイムズは酷評で、「バンカーも少なくラフがゼロ、まるで素人向きのコース」と。素人向きのコース、これこそマッケンジーが期待していた言葉で、彼はニンマリしたのです。マッケンジーは「そうです皆さん、誰もがプレーできるコースです。しかしラウンドした人のみが知る難しさが随所にあります。それらは技を磨いたプレーヤーのみが克服できるからです」と。
　はたせるかな、オーガスタは今や世界一美しく、世界一やさしくもあり、難しくもある近代コースのモデルコースです。そのマッケンジーが、何をボーア戦争から学び、何をオーガスタの設計に取り入れたのかを、著者が推定している本なのです。
是非お目通しくいただきご批判ください。この本は、アメリカ人、イギリス人にも読んでもらうために近く英語版をアメリカにて出版します。
 
 
（安井信之さんのプロフィール）
1938年愛知県生まれ。1960年慶應義塾大学法学部卒業、次いでロンドン大学L・S・E留学。
1962年ブラザー工業株式会社入社。その後、ブラザー販売株式会社を経て、現在ブラザー精密工業株式会社監査役。
元:財団法人日本ゴルフ協会理事、競技副委員長、総務副委員長。中部ゴルフ連盟専務理事、競技委員長。
現在:日本学生ゴルフ連盟副会長、中部学生ゴルフ連盟会長
(本データは、2006年に『オーガスタのルーツは南アフリカにあり』が刊行された当時に掲載されていたものです) 。