2007年6月13日
正直に告白するのは少々辛いのだけれど、数か月前、私の脳はひどい動脈硬化に陥ってると認めざるをえないできごとがあった。
昭和初期の建造物が、種類によっては日本最古という名誉が与えられることを知りびっくり仰天。また、日頃馴れ親しんでいる存在が、ある日突然、重要文化財に指定され、おおいに興奮したものだった。重要文化財を日常生活とは縁遠いものと決めてかかっていたのだから。
東山植物園の温室が現存のある日本最古の温室として、重要文化財の名誉を得たのである。
植物は見るのも育てるのも大好き。
樹木は落ち着きと安らぎを与えてくれるし、花々は喜びと幸せをもたらしてくれる。
とりわけ花ほど、創造の神に祝福された種族も稀ではないだろうか。
豪華絢爛な大輪の牡丹やばらから、名も知らぬほんの小さな野の花まで、更に多種多様で多彩である。
季節の花を充分に愉しむには都会のマンション暮らしではスペースが限られているし、園芸には時間と愛情が不可欠である。
さいわい、うちから数分の距離に東山植物園がある。四季折々の植物と温室のエキゾチックな植物を楽しめる二度おいしい植物園である。そしてヨーロッパかぶれの私はもともと大の植物好きなのである。
ブーゲンビリア、ハイビスカス、ゴクラクチョウなど南国の花々の饗宴はいつ訪れても心おどる光景である。最近のお気に入りはジャワソケイ。背丈ほどの木に枝いっぱいに強烈な芳香の白い花をたくさん咲かせる。
いつか現生地を訪れて、むせかえるような白い花々に囲まれたら、21世紀のマリア・カラスと評判のアンナ・ネトレプコのオペラ、アリアに酔うのと同じくらい至福のひとときではないだろうか。
温室の歴史は古代ローマまでさかのぼり、その昔、ガラスの役目を果たしていたのは雲母版だった。
ガラスの温室が登場したのは17世紀後半で、情熱的なプラント・ハンターの活躍と相まって、ヨーロッパの貴族や富裕階級の間で、温室を所有することがステータス・シンボルになっていた。
温室の改革に大きく貢献したのはイギリス人ジョセフ・パクストン。曲線形の総ガラス張りの大温室を設計し実現した人物である。庭師から出発し、ロンドンで開催された第一回万国博の伝説のクリスタル・ハウス(水晶宮)を出現させ、当時の人々を畏敬させたヴィクトリア朝の立志伝中のひとりである。東山植物園の温室も勿論、パクストンの恩恵を受けた建築である。
関西から友人がやって来ると私はいそいそと(まるで我がもの顔に)、お墨付きを得て格の上がった温室に案内して悦に入っている。
(駒田芳子さんのプロフィール)
駒田さんは1973年から2年半、古き良き時代のパリのヴィトンに勤務。スターと言われる人で来店しない人はいないのでは、という感じだったそうです。
著書に「メンバーズオンリー」があります。そんな経験も含め、15年の外国暮らしを経た方ならではのとても興味深い内容です。