2015年7月17日
夕闇の迫る中区丸太町の交差点の東。100メ―ター道路に面して、闘牛の牛のイラストと店名が彩られたイルミネーションが灯った店舗正面に、赤と黄色の縞の国旗が飾られている。
スペイン料理店「ロス ファローレス」名古屋市中区新栄1の47の15
ここは、荒木直(すなお)さん(S25)がオーナー シェフを務めるスペイン料理店「ロス ファローレス」。 少し照明を落とした店内、静かにフラメンコの曲が流れる中、白いシェフコートに黒のロングエプロン姿の荒木シェフにお話を伺った。引き締まった体躯に胸の旗章が、こだわりのシェフであることを直感させる。
荒木直オーナー シェフ(S25)
荒木さんが、この店を始めたのは約36年前。弱冠25歳の初代創業者である。もともと美術が好きで、美大を目指していたものの、受験に失敗。 そんな頃、名古屋のスペイン料理店の草分け・名東区本郷に在った「エル・ティポ」の女性オーナーと出会ったのが大きな転機となった。
男子部を卒業して半年。19歳の時、「エル・ティポ」オーナーの奨めで、スペイン料理の勉強のため、単身、スペインに渡った。当時のスペインは、フランコ独裁政権の色濃く残る街中を小銃をもった軍人が闊歩していたという。もちろん、日本では、スペイン料理の何たるかすら知られていない時代に、荒木さんが、スペイン料理を選んだのは、いったい何故なのか。「何かをやりたいと思っていた時、エル・ティポのスタッフのひとりだったスペイン女性が作る「オジャ」(olla・鍋の意)と呼ばれる料理に魅了されたから。セロリと鶏肉を米と一緒に煮込んだ素朴な味がとても新鮮だった。誰もやっていない、スペイン料理をやりたいと思いました」。そして、帰国後は、「エル・ティポ」の初代シェフを務めながら、本格的な料理の修行を積んだ。
1980年(昭和55年)、現在の場所に、「ロス ファローレス」を開業。「当時は、情報も何も無く、手探り状態の試行錯誤の連続でしたが、『好きこそ物の上手なれ』で、やってこられました」
「開店当時から、ほとんど変わっていない」という店内は、漆喰の壁に年代の味が醸し出され、置かれた調度品も、老舗のスペイン料理店のムードを漂わせている。座席は40席ほどであろうか。店の中央奥が、2メートル四方の板張りになっており、ここでは、月に2度、土曜日にフラメンコのショーが催される。予約制だが、料理と共に、4,000円から6,000円で本場のショーが堪能できる。
各テーブルを州都旗が仕切っている グラナダ焼きのランプ・シェード
フラメンコ ダンサーとして、今や、名声と実績を誇る中尾貴子さん(G21)も、「ロス ファローレス」のステージに立っていた時代がある。実は、「ロス・ファローレス」のフラメンコ舞台は、この中尾さんの「床に穴を掘って、一段低くして欲しい」という希望を荒木オーナーが聞きいれて造ったものだとか。その中尾さんと、同窓生だったことを互いに知ったのは、随分と年月が流れてからだったそう。「中尾貴子」仕様のこのステージを、多くのダンサーやギタリストが踏んだことを想い、料理とフラメンコの両方を提供してくれる老舗店の歴史と風格を感じた。
次のフラメンコ ライブは 8月15日(土) 高村康子フラメンコ舞踊団
お話を伺ううちに、ご一緒にお店をやっておられる奥様が出勤された・・ご主人の荒木さん曰く、「重役出勤です」(笑)。とてもお綺麗な奥様で、「エル・ティポ」時代のお仲間だったそうで、言わずもがなのご結婚だったようだ。
「スペイン料理は、至極シンプルなもの」と仰る荒木シェフに、何はともあれ、最もお薦めのメニューをお願いし、厨房に入ったシェフの料理を待つことにする。2010年、スぺイン料理が、地中海の食事として、イタリア料理・ギリシャ料理・モロッコ料理と共に、ユネスコの無形文化遺産に登録された。とりわけ、スペインの食文化は、イベリア半島の歴史が大きく影響している。長い歴史と広い国土にあって、民族・風土・気候・宗教の違いが、素材や調理法に、地域ごとの特徴と変化をもたらしている。とはいえ、イベリア半島・地中海の山海の幸を活かして、特産のニンニクとオリーブオイルで味付けするスペイン料理は、日本人の好みにあっているのかもしれない。荒木シェフの自慢メニュー、どれも文句なしで美味しい!
人参サラダ(ensalada de zanahoria) タコの煮物(pulpo en salsa)
●細い棒状の人参をオリーブ、酢、ガーリックなどで和えたサラダはシェフ自慢の一品
●トマトソースの煮込み ソースと絡まったタコの柔らかさ!
イベリコ豚の生ハム(jamón ibérico )
●イベリコ種の黒豚を熟成させた生ハムの名品(赤い肉に特徴)
小海老のアヒージョ(gambas al ajillo) トルティージャ(tortilla de patatas)
●海老をオリーブオイルで煮込んだもの。ajilloは ニンニク(ajo)風味。お変わり自由のトーストを熱々オイルに浸すと絶品。
●定番「スペイン オムレツ」。まさにシンプル。ジャガイモの「トルティージャ」は家庭の味。
肉団子の煮込み(albóndigas) イカの墨煮(calamares en su tinta)
●トマトソースで煮込んだ肉団子。 肉団子に入った生ハムが まろやかな隠し味に。
●ヤリイカの切り身を数種類のイカ墨で煮込んだ一品。墨の味が深い。
パエリア(arroz a la marinera / paella) タルト サンティアゴ(tarta de Santiago)
●究極の定番 米と野菜 魚介類をサフランで炊きこんだ世界的人気メニュー
この店のパエリアは おこげが少なく、お米がしっとりとした食感
●サンティアゴ・デ・コンポステラの修道院が始まりのアーモンドケーキ
シェフお薦めのこれらのメニュー以外にも、現在、常時38種類の料理があり、希望すれば、メニューにはないお料理にも応じていただけるとか。スペイン料理としての食材は、地場産の野菜など、できる限り国産のものにこだわっている。長年にわたって研究され尽されての味は、どれも、あっさりと食べやすく、素材そのものの味が活かされている。リピートしたい美味しさ。
南山時代の友達とは、「同期会の打ち合わせを、店に来てしてくれるけれど、土日に開催される同期会には、一度も行けてない(笑)」。南山時代の成績を問うと、ふと躊躇いながら、「いや出来ませんでしたよ」と、余裕の回答。絶妙な間合いに、きっと成績は良かったとのだと確信した。「美大受験を勧めてくれた大嶽先生・バレーボール部時代の久田先生・打ち首!の黒川先生と島本先生」・・男子部時代の想い出を問うと、恩師の名が次々と上がった。
お店のお休みは不定期ということで、予約があれば1組でもお店を開けるし、要望があれば、お昼も開けます。でも、予約が無い時は、お休みにすることも。その休日は、釣り・テニスを楽しむ。取材の翌日も、郡上への鮎釣りの予定で、褐色の肌の理由は、川・海を問わない釣りにあった。
「ロス ファローレス」・・「灯り」(farol)を意味する店名は、旧知の友であるペピー・フェルナンデス・城田さんによって名付けられた。「たくさんの灯りが灯る繁盛したお店」になるように・・
そして、今、スペイン人の旧友の願い通り、「ロス ファローレス」は、名古屋で最も老舗のスペイン料理店として、常連客を惹きつける人気の名店となった。
文:堀江&塩野崎/ 写真:吉田
ご紹介者:川村正さん(S25)
スペイン料理店「ロス ファローレス」
052(242)0059