2008年11月9日
2008年度のノーベル賞は、物理学賞が南部陽一郎、小林誠、益川敏英の三氏に、化学賞が下村脩氏と一度に4人もの日本人に贈られることになりました。
その中で、小林氏、益川氏、下村氏の三氏は名古屋大学の関係者だったので、名大は一躍スポットライトを浴びることになりました。1960年代の名大理学部には、小林・益川両氏が所属した「坂田研究室」と下村氏の所属した「平田研究室」とも、上下関係のない自由闊達な環境があり、「素粒子物理学」や「タンパク質のふるまい」といった基礎研究が、目先の成果主義にとらわれないで思う存分できたのだそうです。 それが結実し論文が発表されたのが70年代で、さらに30年以上経って、今年ようやく受賞が決まりました。
さて、韓国の「中央日報」には、物理・化学の分野で既に12個のノーベル賞をとった日本に比べて1個もない自国の高等教育の現況を憂う社説が載りました。一部引用しますと「優秀な学生は理工系を忌避し、就職状況のよい文系や医大に集まっている。過去5年間の国際科学オリンピック受賞者(98人)の47%である46人が韓国内の医大に進学したことがこれを立証している」というのです。あらまあ、もったいない!韓国の若者は「科学オリンピック」で入賞するほどの才能があっても、就職を考慮して、学者より医者の道を選んでしまうのですね。
実はこの傾向は、韓国だけではありません。現在の日本は、小林・益川両氏が学生だった40年前とは違い、優秀な生徒は医学部に殺到し、医学部の合格難易度は年々高くなるばかりです。そんな中、我が南山高校は、国公立大医学部合格率ランキングで全国第12位。(毎日新聞社刊「高校の実力2008年度版」による)また、女子校だけで見ると、何とあの東京の桜蔭を抜いて、堂々全国第1位になりました。
おめでとー!パチパチパチ!
おっと。この母校の進学実績は単純に喜ぶべきものでしょうか。他のランキング上位校を見ると、1位に東海高校、9位に旭丘高校の名古屋勢が入っています。ということは、優秀なナゴヤっ子は、実利主義の韓国と同様に医者ばっかりめざすので、もう名古屋からは、これ以上第4、第5のノーベル受賞者は出ないかもしれないということになりますね。
あら?賞がとれないといけませんか?賞をとるより人命を救うほうに意味はないですか?優秀な若者達が、モノの仕組みより、ヒトの生命の神秘に目覚め、医学を極めようとしているのかもしれませんよ。それとも、やっぱり、偏差値の低い理学部なんかに行って、将来の保証の何もない基礎研究なんか地味にやるより、偏差値も年収も高い医学部に挑戦する方が、カッコいいと思っているのでしょうか。
このように、医学部人気の現状は、見る角度や立場によって、いかようにも解釈できて、単純に良いとも悪いとも評価できません。ただ南山人としての私に一つ言えることは、何をやるにせよ、自分のやっていることが、つまるところ「人間の尊厳のために」つながっているか、という自問を忘れないでいればよいのではないか、ということです。やっている事が心底大好きで、大変な時もあるけれど結局続けられることは、研究だろうと、仕事だろうと、習い事だろうと、家族の食事の支度だろうと、介護だろうと、全て「人間の尊厳のために」つながることだと思います。それは「ノーベル賞」受賞に勝るとも劣らぬ尊いことだと思っています。
ですから、南山の後輩達にも、今後どんな進路を選ぶにせよ、自分の好きな場所をみつけて「人間の尊厳のために」自分の才能を十全に発揮して活躍していってもらいたいと願っています。
岩田 純子 G24
南山大学外国語学部英米科卒業
ロータリー財団奨学生としてNY州立大学オルバニー校大学院演劇科留学
河合塾英語科講師