vol. 42 駒田 芳子(G6)「デパートの休日」 – Nanzan Tokiwakai Web
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2009年6月26日

vol. 42 駒田 芳子(G6)「デパートの休日」

 フランス人が最も誇りにしている祝祭日、7月14日。観光客でごった返すシャンゼリゼで首尾よく壮麗なパレードを見物し、午後には花の都のショッピングを楽しみにしていたから、デパートに、高級ブランド店に馳せ参じたのに、どこも閉まっていて、やむなく土産物店ですませた、と嘆く知人のおしゃべりを聞いていて、私は複雑微妙な心境だった。
 一行はノルマンディの小都市で開催された国際的な学会に出席した大学の研究者たちである。
 高級店から100円ショップまで、日曜・祝日に閉店していたとしたら、日本では何か天変地異に類することが起きたと大方の人は考えるに相違ない。
 日本の常識はパリでは通用しない。
 高校生の頃、わが家は市外に引越し、私は私鉄電車通学することになった。思いがけず、名古屋有数の繁華街が身近になった。駅周辺は私の学生時代・青春時代の原風景のひとつになった。とりわけターミナル・デパートは待ち合わせたり、時間つぶしをしたり、通り抜けたり、化粧室を拝借したり、ひとかたならぬお世話になった。滅多に買い物はしなかったのに。
 駅界隈は驚異的な発展を遂げ、馴れ親しんだ映画館や喫茶店はあとかたもなく消え去り、往時を偲ぶよすがもない。すべては夢まぼろしの如くであるが、ターミナル・デパートは健在である。美しく化粧直しをされた外観や内部同様に、デパートはその有り様がすっかり変貌してしまった。
 当時、あらゆるデパートは週一回平日が定休日だったのに、今では殆ど年中無休である。6時だった閉店時間も延長された。
 80年代半ば、帰国した日本はエネルギーに充ち溢れた不眠不休の経済大国だった。
 日曜日ごとに静まり返るパリの街。観光客相手の商店やカフェやレストラン以外、日曜日は休日、つまり安息日である。ヨーロッパが文明を持った2000年前から守り続けられている決めごと。フランス人は生まれたときは皆カソリック教徒である。殆どのフランス人のファーストネームは諸聖人に由来している。カソリックは日常生活に深く根を下ろしている。
 むろん、古い習慣が廃れていくのは世の習いである。都市の変貌も避けられない。
けれども、人間も都市も休日は必要不可欠である。せめて月一回、てんでバラバラでも商店や娯楽施設が休日をとったら、どれぼど地球温暖化防止に役立つことだろう。
 
 
駒田 芳子 G6 プロフィール:
 
「パリに恋した私に、気まぐれな女神がポンと投げて寄こしたのがヴィトンの職場でした」
 駒田さんは1973年から2年半、古き良き時代のパリのヴィトンに勤務。スターと言われる人で来店しない人はいないのでは、という感じだったそうです。
 著書に「メンバーズオンリー」があります。そんな経験も含め、15年の外国暮らしを経た方ならではのとても興味深い内容です。

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