2010年5月17日
裸を見られている様な恥ずかしい気持ちがする。初めて本、「ファルファッラ」(イタリア語で蝶)という紀行文を自費出版して感じた正直な胸の内。
「裸は見たくないけどネ。綴られた文章に秘むあなた自身が見え隠れするのは面白いよ」
「ヒッチハイクと同じだと思えば?乗せてあげてもいいと思う人が車を止める。読んでもいいと思う人が見る君の姿。いいじゃない」
友人たちの励ましの声。
書店に並ぶ真新しい、しかし完成するまでの十ヶ月余り慣れ親しんだ苦渋と喜びが詰まっている自分の本をみて、感慨深いこの初めての気持を大切にしたいとも思う。
自由な衣を纏う人生の達人が言う。
「楽しく生きるには三つのカク(・・)が必要だ。義理を欠く。汗をかく。恥をかく」
義理。かんじがらめになったら窒息する。
汗。人の為に動く。体を動かす。留まらない。
恥。他人がどう思うかなんてどうでもいい。恥をかくことを否わなくなると、パッと自分が解放される。
そして今、私は恥をかいている。堂々と。ああ、しかし、自由は簡単には味わえないのだ。
幾度旅をしただろうか?何十回。ついに、紀行文を出す。出版してしまった!
よく、生きることを旅に例える。旅へと駆りたてられるのは自然な気持ちだ。実行するかしないか。空想の旅とて心が踊る。
学生時代、欧州建築探索ツアーに参加した折、ローマに強烈な熱気を感じた。他の都市は年月を経るごとに色が淡くなるというのに、ローマだけは一層色鮮やかになってくる。
何故だろうか?何があるのか?
二十五年後(何と長い熟成期間であったか)ひとりでローマへ旅立った。予告したら実行できないことは分かり切っていたので、発つ前日家族につげた。ショックと怒りで夫は家を飛びだし、その晩帰ってこなかった。初めがこんな風だったから以後はスムーズ。黙認。
最近、ひとり旅に出る私の背に、夫が言う。
「かわいい子には旅をさせろ、と言うから」
彼にしたら、海辺の小屋で勝手気儘な暮らしをする私は不遜の子供なのだ。
スーツケースに荷を詰めだすと、心の旅はもう始まる。日本にも訪ねてみたい所はあるが、異国へと足が向いてしまう。とにかく大海原を渡りたい。見知らぬ地、光、人に会いたい。
「外国カブレじゃないの」と言われ、「そうかぁ、カブレていたのか」
どうりで旅立つ前には必ず発熱する。彼の地に着いてもしばらく熱っぽい。
「やはり病気のようだ」と私は納得。だが、
「大地を彷徨(さまよ)うことなくて何の人生か」
知多半島にあるわが庵からは、セントレアを飛び立った飛行機の翼が陽の光を受けて
キラキラ輝いているのが、今日も見える。
G12 松本志保さんのプロフィール
早稲田大学建築家卒業。
ヨーロッパ建築観て歩き1か月(20歳)、家族に内緒でローマに脱出
初ひとり旅(45歳)、以来長期の旅ではニューヨーク1ヶ月、ローマ2か月など、短期の旅ではアマゾンを含め十数カ国を年に数回。
マスターズ、ハンマー投げの元日本記録保持。
現在、知多半島で海小屋暮らし。
著書に「ファルファッラ」シチリアとアマルフィーの旅 がある。
http://www.nanzan-tokiwakai.com/public.php