2021年9月25日
■はじめに
江戸に生まれた渡辺崋山は、渥美半島の田原でその生涯を終えたこともあり、若い頃から気になる存在ではありました。以前「ひとすじの糸」(その主人公・小淵しちも同じく三河・二川で一生を終えた)を書いた後、いつかは崋山をという思いがありました。やっと書き上げた次第です。ご紹介できる機会を得て、嬉しく思います。
『わが行く道は遥けくて 渡辺崋山の生涯』(鳥影社刊)
著者 馬場豊
■今年は、崋山没後180周年です。
渡辺崋山はどのような絵を描き、どんな人生を歩んだのか……。実在した人物なので史実をしっかり押さえたうえで物語を構築しようと考えました。手紙・日記・評伝などを辿るにつれ、次第にその人間としての魅力に引き込まれていく自分を感じていました。そして、彼に生じたさまざまの問題は、現代を生きる私たちにも通じるものがあると思いました。
~武士・絵師・家老・蘭学者として、開国前夜を駆け抜けた崋山~
渡辺崋山(1793~1841)は、日本史教科書に名前こそ載りますが、どんな人物であったかはあまり知られていません。「蛮社の獄」で捕らわれ、ペリー来航の12年前にこの世を去っています。私は、言わばその「開国前夜」においてこそ、以後の激動の時代につながる歴史の胎動が潜んでいたと考えます。そこに崋山がいました。
~小藩に生まれた崋山~
崋山は三河・田原藩の江戸屋敷に生まれました。わずか1万2千石の小藩。尾張藩61万石には足元にも及びません。父が病弱なうえ7人の弟妹がいて、武家であっても赤貧の暮らし。後に画家としても知られますが、絵を習い始めたのは絵を売って家計を助けるためでした。
~志をもって生きた崋山~
青年となり長崎で学ぶことを志し、藩政改革に夢を抱くも挫折を味わう。やがて蘭学に傾倒。そして鎖国下の日本で世界情勢にいち早く通じた存在となり、「蛮社の獄」に巻き込まれていくのです。それはどんな事件であったのか・・・。
~多彩な人物群が登場~
彼の周辺に集まってくる諸人物 (蘭方医・高野長英、 画家・椿椿山(つばきちんざん)、江川英龍、鳥居耀蔵ら)を登場させ、開国に向かっていく時代の息吹を生き生きと描いてみたいと思いました。さて、どこまで近づけたやら・・・。
■「読む演劇」として楽しんで下さい
戯曲は舞台上演の前段階のものと見なされがちですが、「レーゼドラマ」という言葉もあるように、「読書として読み楽しむ」こともできます。セリフをじっくり味わいながら場面を頭に描き、人物の行動・心理を追い、演劇独自の物語展開を楽しむのです。
昨年からのコロナ禍で、実際の演劇鑑賞の機会は極めて限られたものになっています。
まずは「読む演劇」として、いかがでしょうか。
(著者略歴)
2019年、南山国際中学校高等学校国語科専任教諭を定年退職。
在職中は演劇部顧問を務め、学内外において生徒・保護者・市民合同での朗読劇(戦争
関連)の発表を続けた。
また、舞台劇の戯曲を創作、上演。他の著書に『ひとすじの糸 玉糸の祖 小淵しちの
生涯』(これから出版)、『捕虜のいた町 -城山三郎に捧ぐ-』(中日新聞社)が
ある。