2024年10月20日
私は国立天文台で天文学を研究している大学院生である。本稿は、天文台での私の「裏」活動をまとめた「裏」活動報告である。
1. 茶道
今年国立天文台は、1924年に三鷹村(当時)に移転してから100周年を迎えた。長い年月を経て成長した木々は、いまや立派な森を形作っている。私は友人たちを誘い、その森の片隅に佇む桜の木の蔭で、100周年を祝う記念茶会を盛大に催した。やかんとカセットコンロを釜と風炉に見立てた。花入の竹一重切と茶杓は私の手作り。ごっこ遊びのような茶会であったが、かえって肩肘張らない柔らかな雰囲気が友人たちに好評であった。
その後、その日撮った写真がきっかけで、とある推薦を受け、不審庵短期講習会に参加させていただくことになった。不審庵短期講習会というのは、表千家家元のお茶室とお道具で、お家元の直接のお弟子さんに、一週間みっちりお稽古をつけていただける講習会である。いわば本物の中の本物のお茶を五感でフルに体感できる、茶人ごっこをする私には大変ありがたい講習会である。推薦くださったのは、ごっこ遊びをしてでもお茶を楽しもうとしている私に、本物のお茶を見てほしいというご配慮だったのだろう。講習会に参加し、お茶はとも一言では表せない、数百年以上の歴史の重みがあり、多くの要素が渾然一体に混じりあった総体であることを改めて認識した。お茶碗一つをとっても、人が認識できる以上の情報が確かに埋め込まれている。その幽玄な感じが宇宙と似ているようにも思った。講習会中に、千利休居士が祀られているお祖堂にお参りする機会を得て、今回の不思議なご縁に感謝した。
今後は、お家元で学んだことを基礎に、天文台にふと息がつける場所を作り続け、ごっこ遊びを通してお茶の裾野を広げたいと考えている。
2. 失敗談
今年の6月、長年憧れていたケンブリッジの研究者から、私の論文を高く評価しているというメールを受けた。7月にスイスとイタリアを訪問する予定があったため、研究室訪問を打診すると快諾を得た。こうして、ケンブリッジ(イギリス)、ジュネーブ(スイス)、セスト(イタリア)を巡る2週間のヨーロッパ出張が決まった。
ケンブリッジ訪問は順風満帆そのものであった。憧れの研究者と研究に関する議論を交わし、お楽しみに学生達とブリティッシュパブに足を運んだ。浅草で買った提灯を、お土産に渡してそれも喜んでもらえた。
イギリス訪問は一生忘れられない思い出になったが、出張の本番はむしろこれからであった。まずジュネーブへの移動で飛行機に乗り遅れた。やむなく陸路に切り替えたが、さらにパリでチケット発行トラブルに遭い、ジュネーブまでの鉄道チケットを手に入れられなかった。途方に暮れたが、最終的に深夜バスの存在に気づき切り替えることにした。バスを待つ間、落ち込んでいる時にマクドナルドに立ち寄った。パリまで来てと思うかもしれないが、食べ慣れた味に救われた。
さらにイタリアの研究会でも波乱があった。ある日、レクリエーションとして皆で近くの山を登ることになったが、10時集合のところ、私は90分遅刻した。集合場所には誰もいない。一人でも迷うことはないと現地の人が話しているのを聞いていたので、一人で山に登ることにした。途中、自分が現金とカードを持っていないことに気づいたが、結局一人で頂上まで登った。運良く学生グループが休憩しているのを見つけ、彼らと合流することにした。彼らも30分くらい遅刻していたらしい。彼らにお願いしてお金を借りて、追加の飲み物を買ってきた。そのままループハイクに行った。
終始こんな調子であった。失敗の他にも、ヨーロッパでは東京よりもユーモアが重視されているようで、気の利いたジョークの言えない私はかなり困った、なんてことがあった。痛い目にあった私が経験した失敗とその対処を公開することが後進のためになると考え、失敗談を詳細にまとめて公開した。この失敗談は友人たちから高い評価を得ていて、早くも弊学の後輩が海外出張をする際の必読の書としての地位を確立しつつある。今後も失敗談を必要に応じて更新し、学生間の情報共有の円滑化に貢献したいと考えている。
以上、「裏」活動報告でした。今後も”あそび”を大事に活動をしたいと考えている。遊びをせんとや生まれけむ。
【プロフィール】
波多野 駿 (K25/はたの しゅん)
福岡生まれ。愛知県出身。2018年に南山国際校を卒業。大学1年生の時にお茶を始める。2022年に東京大学理学部天文学科を卒業後、総合研究大学院大学の天文科学専攻へ。現在、博士後期課程の1年生。望遠鏡を用いて中くらいの大きさのブラックホールを探している。
※2023年8月に南山常盤会から発行された南山国際史誌 『HOME~Nanzan Kokusai and Beyond~』に、「南国と国立天文台の共通点」が掲載されています。
(お申し込みはこちらから→https://www.nanzan-tokiwakai.com/home_nankoku_beyond/)