2025年1月17日
今回は2025年に創立50年を迎える「ローレンシャンインターナショナルスクール」の校長であり代表取締役社長の中村和世さん(G38)にお話を伺いました。2009年に初めて取材をさせていただき2度目のご登場となります。スクールを取り巻く環境の変化や最新プログラムのご紹介、中村さんご自身のお考えを伺いました。(メールを主体とした取材となりました)
<経歴>
1991年 南山高等学校 女子部 卒業 (G38)
1993年~ イギリス オックスフォード大学留学
1994年~ 文部科学省(当時は文部省)より中華人民共和国 上海市 復旦大学 派遣留学
1995年~ 住友銀行 上海支店勤務
1997年~ フランス投資銀行、NYでの財団にてマネージメントに従事
1998年~ ローレンシャンインターナショナルスクール インターナショナル部門チーフ
2000年~ アメリカ NYコロンビア大学 留学
2008年~ 校長 兼 代表取締役社長
現在に至る
―2025年で創立50年を迎えますね
1975年に母が創った基盤を私が継ぎました。その母も現役で子どもたちの指導をしております。現在は講師陣の年代も幅広く、海外在住の講師もおり、レッスンは対面だけでなくZoomを使ったオンラインのレッスンも開講しています。
創立以来4000組以上のご家族とお付き合いをしておりますが、生徒だけではなく、ご家族にも寄り添いながら、長いスパンでの交流がとても貴重であると感じています。
―どのような生徒さんやご家族がいらっしゃるのでしょうか?
スクールには2歳から高校生までが在籍しており、在籍年数が10年を超える生徒も少なくありません。1番長く在籍していた生徒は2歳から高校2年生までの15年間、ご兄弟で通い続けてくださり、ご家族の方ともお子様の進路や職選び、一般的な悩みの相談にものったりしています。
―スクールのプログラムをご紹介いただけますか?
スクールの公式ホームページに、プログラムの一覧が掲載されています。
(下記URLリンクよりご参照いただけます)
https://iq-kids.net/program/index.html
―ユニークなプログラムが多くありますね。どのような思いでプログラムを作られていますか?
まず、人生の選択肢が広がっていることです。
女子大学で講演をした際の経験ですが、結婚をしたいと考える女子大生は半分以下、子どもを持ちたいと思っている人はさらに少ないという現状を知りました。このことは人生の選択肢が広がっているとも言えますが、その分、自分で考えを決めていかなければいけない場面が増えているのだと思います。
その中で、自分が大事にしているもの、自分の家族が大事にしているもの、自分らしい人生を送っていく上で優先したいこと、自分の価値観が言語化できているということはとても大事なことです。
さまざまな年齢の人やバックグラウンドが異なる国内外の人との関わりの中で、その価値観というものが徐々に言葉にできるようになると、これからの時代とても大きな武器になるのではないかと思います。
―自分自身の価値観を「言語化」することですね、他にはございますか?
日本で育まれた「強み」への感謝と、私自身が海外での経験で感じた「課題」です。
南山や名古屋そして日本で育まれた強みに感謝するとともに、20代のほとんどを海外で暮らし、いろいろな価値観をもつ人たちと関わった中で、日本で受けた教育の課題についても思うことがあります。
基本的に個人戦の義務教育の勉強面において、グループで成果を出すという体験や、その中で自分が得意なことで価値を提供するという体験はもっと小さな時からできると良いと思い、プログラムにできる限り反映させ、指導の際にも心掛けています。
日本の強みについては、日本固有の美意識や価値観も大切にして子どもたちには伝えていきたいと思い、自身が30年ほど続けている茶道を、日々のレッスンに当たり前にあるように取り入れています。
<季節のお茶会>
郊外の古民家で作陶とたけのこ狩り、季節のお茶会なども行っています。
(2歳~高校生 / 毎年4月~6月)
<毎年恒例の春を生けよう>
春のお花をよく観察し、葉っぱのつきかたや匂いの違いも楽しみながら、生け花やアレンジメントに仕上げます。
(2歳~高校生 / 毎年春休み)
<春をいただく>
こごみやタラの芽などの春の山菜を摘み取り、香りをかいだり、バラして観察したりします。10種類以上の春の食材を一緒にお料理して、皆で味わいます。
(2歳~高校生 / 毎年春休み)
<アート:落ち葉>
近くの徳川園に散歩に行き、落ち葉を集めてきて、
アート作品に仕上げます。作品のタイトルも自分で決めて、創造性や表現する力を育みます。
(2歳~高校生 / 通年)
最後に、小学校受験への取り組みです。
受験のベースとなる知能のレッスンを幼児期から始めることは、とても価値のあることであると思うとともに、志願書の作成などを通じて、保護者の方が自分たちの家族が大切にしている価値観、自分が親から受け継いだ価値観、そして子どもに伝えていきたいものは何なのか、それを掘り起こして言語化していくこと。これも保護者とスクールにとって貴重な体験であり、丁寧に取り組みを続けています。
受験後も保護者の方々の思いをどうやって子どもたちに伝えていくかという役割も大きいと思っています。
このように、小学校受験サポート、特に南山小学校受験で積み上げてきた経験は、日々のスクールのプログラムの中にも反映しています。
(南山小学校、愛知教育大学附属小学校、椙山小学校、関東関西の小学校への進学者は、スクール創立以来、約500名となります)
―スクールとして大切にされていること、それはどのようなことでしょうか?
その子らしさをどうやって見失わず、それを伸ばし続けていけるかというところです。
保護者の方はどうしても子どものできないことに目が向きがちですが、これからの世の中は、より自分の得意なことで勝負していく世界になると思います。私たちの役目としては、その子の強みと良さ、他の子にはない良さをどうやって支え続け、伸ばし続け、そのことを保護者の方々にお伝えできるのかだと思っています。
―プログラムへの思い、そして、大切にし続けていること、よくわかりました。
では、近年取り組まれている「イノベーションプログラム」について詳しくお聞かせいただけますか?
延べ数百名が受講しているスクールオリジナルの人気プログラムです。
受講生は幼児から高校生まで幅広く、オンラインのレッスンも開講しています。
このプログラムはVUCA(※1)の時代に必要な力として、自ら問いを立て何かを生み出す力、つまり、新しい価値を創る力を育てることを目的としています。
例えば、「あるモノを役立たずにするにはどうしたら良いのか?」と普段では考えないような問いをします。機能を不能にするにはどうしたらよいか頭をひねることは、普段使わない発想を引き出します。また、役立たずになっても、別の何かには役立つかもしれないということで発想を転換します。
モノの常識的な価値を改めて見つめることで固定概念を疑い、新しい価値を生み出す思考の訓練です。常識に凝り固まった大人は難しく考えてしまいますが、子どもたちは軽やかに楽しみながら新しい価値を生み出していきます。
―それは子どもの頃から訓練が必要なのですね
自ら考え生み出す創造の力は、急には育ちません。様々な経験の中で、肯定されて勢いづき、否定されても、それでもと、ゆっくり醸成されていく力なのです。
これからの世界は、自分が信じる価値という、新しい道を生み出しながら自由に突き進む事ができる人たちが増えてくる。大人になってから右往左往するのではなく、子どもの頃から自分だけの豊かな土壌を育てておく必要があるのです。
―イノベーションプログラムには「アート」に関するものも多くありますね
「アート作品」を作り鑑賞することは、器用さや教養だけではなく、自らの価値観を認識し、育てていくことに本質があります。
作品を創ることは、自らの意思を表現するひとつのカタチです。正解があるものではなく、自分が良いと決めるものです。だからこそ、創り出すことが難しく、それが共感された時には自分が肯定されていると感じます。創造的な行為を通した自己の価値観の創造は、自分自身の軸を定めて、自分の人生を生きることです。
多様な生き方を選ぶこれからの世の中で、どうすればそのチカラを養うことができるのか、具体例をお示しできるプログラムではないかと思います。
<イノベーションプログラム>
(2歳~高校生 / 通年(毎週水・土))
<幼児さんのアートやイノベーションプログラム>
(2歳~高校生 / 通年(毎週水・土))
(※1) Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取った言葉で「変化が激しく、将来の予測が難しい状況」を指す。
―海外とのコラボレーションプログラムもご紹介いただけますでしょうか?
ハーバード大学合宿やイートン校のオンラインプログラムなど多数開催してきました。例えば、ハーバード大学では、素粒子の研究をしている博士からレクチャーを受けていた生徒が、自分は医者を目指していたが、物理学の研究者もいいなと思い、博士に相談した時に『両方の学位をとればいいじゃない』と言われ、知らない間に可能性を狭めていることを体感したという場面などは、自分の既存の価値判断の軸に触れ、よい意味で打ち壊された瞬間でもあり、見ている大人も感動し、この仕事をしてよかったと思う体験でした。
―海外のプログラムの特徴は?
日本をバックグランドにもつ私たちとは異なるアプローチの教育プログラムに触れることが少なくありません。イートン校では、リーダーシップのプログラムのなかに、親に頼まれたときにどう断るか、という課題がありました。世界的なリーダーを育成するプログラムですが、家族とのコミュニケーションが基盤となっており、ロールプレイを取り入れて、クラスメイトの断り方を参考にしたりと、議論する時間がたっぷりとられており、日本の子どもたちにとっては、当たり前に考えていることを見直してみる価値がありそうだと思わせるほど、プログラムひとつひとつから、多くのことを学んでいます。
<ハーバード大学&ニューヨーク国連合宿>
ハーバード大学で初の物理学の女性教授の講義を受けるスクールの小学生
(小学校高学年~大学生 / 2019年夏(海外合宿は3年に一度ほど開催))
<ハーバード大学でのファイナンスの授業>
出された問題の考え方や計算方法を壁一面に書いて答えました。日頃の発想の枠から飛び出して考えます。
(小学生 / 毎年GWや夏休みなどの季節講習に開講)
―国内でのプログラムの内容についても教えていただけますか?
企業の方々をお招きして行うプレゼンテーション大会や、大学や研究所での合宿、ボランティア活動などにも力を入れてきました。合宿など体験型のプログラムが多く、横のつながりも縦のつながりもあるのが、スクールの強みです。
<プレゼンテーション大会>
小学生が、ひとりひとりテーマを1年かけて決め、掘り下げ、探究学習し、企業の方々もお招きしてプレゼンテーションします。
(小学生~高校生 / 毎年春から秋に開催)
<国内の合宿>
瀬戸内海にある直島の芸術作品をグループでまわる美術館プログラム
(年長~高校生 / 毎年春と夏)
<京都大学合宿>
物理学研究室では、ノーベル物理学賞受賞者(湯川秀樹先生)から受け継がれている精神、探究するマインドや喜び、現在の最先端の研究内容などをレクチャーいただき、興味関心の世界を広げていきます。またiPS細胞研究所でのレクチャー、南山女子部卒業生による哲学プログラムなど、朝から晩までさまざまなプログラムを実施し、期間も一週間におよびます。
(年長~高校生 / 毎年春と夏)
<ボランティア活動の募金箱>
毎年クリスマスから年末年始に、自分の支援したい先を考え、どのような支援ができるか、考え実行するボランティア活動もカリキュラムのひとつ。写真は、普段お世話になっているお店にお願いして置いていただいた募金箱。被災地の方々との交流も続いています。
(幼児~高校生 / 毎年冬休みに開講)
<直島デレクさん 夏のプログラム>
ハーバード大学で宇宙物理学を専攻し、スクールのアドバイザーでもあるデレクさんのプログラム「クリティカルシンキング(物事を論理的に分析したり、批判したりしながら、考察を深める思考プログラム)」
(小学生~高校生 / 毎年春と夏に開講)
―「心のケア(ストレスマネージメント)」も大切にされているとお伺いしました
世の中の変化が早く、大きく、複雑化していく中で、勉強だけではなく、友達関係も含めた心のケアが以前よりも大切であると強く感じています。
ストレスマネージメントのプログラムも、スクールオリジナルのものが多数ありますが、毎年行っているプログラムのひとつに、自分の中に心の扉があるとして、それを絵に描いてもらう、というものがあります。扉は何でできているか、鍵がついているかなど、会話をしながら絵を描きます。 自分の心の中に、境界線ができてない子どもと、ここから先は自分が許可を出した人しか入らせないよと、境界線ができている子どもがいて、自分では認識もしていないことも言語化して、相互に学びあっています。
コロナ禍では、こういったストレスマネージメントの大切さ、ヒューマンスキル、コミュニケーションスキルの大切さも痛感し、心のケアに携わる指導プログラムなども私自身が受講し、子どもへの指導だけでなく、保護者の方々のケアにも活かすことができればと思っています。
(取材2024年12月:牛田雄久/S44)