2011年8月28日
ヘボって何だ?下手っぴのことをヘボとも言うが、このヘボは真に美味しいのである。長野などに行くと、土産物屋に缶とか瓶で「蜂の子」なんて売られている。結構高価なものだ。いわゆる蜂の幼虫の佃煮。全国的に山間の場所なら、あちこちにあると思うが、やはり長野とか岐阜などが産地としては有名だ。
この「ヘボ」というもの、黒スズメバチの幼虫、ゲテモノと云われれば確かにそんな向きもあるが、ボクなどはガキの頃から食べさせられたから、別にゲテとは全く思わず、今でも食べたいなぁと思う時がある。缶詰や瓶詰めではなく、やはりお袋が作った味でだが・・。スズメバチというと、あの大きな、黄色い獰猛なスズメバチを想像するかもしれないが、あれとは違って黒スズメバチは体長1センチ半から2センチほどの小ぶりの黒い蜂、刺されてもそんなに大したことはないが、やはり痛いことは痛い。その黒スズメバチの住処、いわゆる蜂の巣を見つけ出して、その何段にもなった巣から幼虫を取り出して食する。
蜂の巣からピンセットで幼虫、いわゆる蛆(ウジ)、これを巣から引っ張り出してフライパンでちょっと炒ってから甘辛く味をつける。そのまま食べても良し、ご飯に炊き込み、まぶして食べても良し、これを「ヘボ飯」という。これが絶品。山の鰻丼かな。高タンパクで栄養価満点、蛋白源に乏しい山間に住む人たちの、昔からの栄養補給の食材であったようだ。幼虫は生でも食べられるので、ピンセットで摘み出したヤツをそのまま口に入れることもある。口に入れてプツッと噛むと、ほんのり甘く、なかなかのもの。エスキモーはカリブー(鹿)の背中に寄生するウォーブルフライという大きなハエの一種の幼虫、蛆・・人間の親指ほどもあるようだが・・を生で食べるようだが、まぁ似たようなものだ。でも、やはり生より手を加えたものが美味しい。
今では、超高級食材で巣一段が万単位の値が付いて売られている。
もっとも、この蜂の巣を獲るのが大変なことで、この蜂の巣を獲るのに大の大人達がガキのように山道を走り回り、巣を見つけた時は、宝物を見つけた時のように小躍りして喜ぶという。そのやり方は、まさに前時代的なものである。まず、蜂が好きそうな食べ物、匂いがきつく生臭そうなもの、魚とかイカとかの切り身を木の枝に吊るし、蜂がその匂いにつられて飛んで来るところから始まる。蜂がその餌を見つけ、巣に持ち帰るべく一生懸命、夢中になっているところを、その蜂の足に白い綿を括り付ける。
蜂が逃げないのは面白い。そうとは知らない蜂くんは、持てるだけの食料を確保し、足に白い綿を付けたまま、巣に向かって飛び立つのである。白い綿が付いた蜂は青い空・・曇っている時もあるが・・に一際目立つ。女王様のいる宮殿目掛け、一目散に飛ぶのである。その蜂を見逃すな!とばかり、巣を狙う男達は走り出す。道なき道、急坂、獣道、相手は空中を飛んでるのだから、それは大変なこと。途中で見失い、最初からやり直し。見失ったところに人を配置することを忘れずに。何度も何度も繰り返し、ようやく目印をつけた蜂が降り立った所、そこが巣のある場所である。
今や、男どもに取り囲まれ、絶対絶命の黒スズメバチの館、煙幕を焚き、煙で燻りだされると蜂は仮死状態になる。その後、丁寧に巣を掘り出すのだ。地面の中に巣を作るから、別名「地バチ」ともいう。何層にもなった巣には、幼虫やもうすっかり大きくなって飛び出す寸前の蜂もいる。巣が大きければ大きいほど幼虫も沢山詰まっているし、価値も出る。そのまま里に持ち帰り、冒頭に言ったように幼虫を取り出して食べたり、販売業者・・野菜の販売店いわゆる八百屋・・に売ったりする。また、獲って来た巣を箱に入れてさらにその巣を大きく育てることもする。仮死状態になった蜂たちは、眠りから覚めると「ありゃ、宮殿がない」とばかり、探し回り、巣の入った箱を見つけ、また巣作りを始めるのである。女王蜂がいないと子供が生めないから、女王蜂を巣においておかねばならない。女王蜂を冷蔵庫に入れて、仮死状態のまま保存も出来るようだ。蜜蜂が箱で飼われて養蜂といいますが、黒スズメバチもそんなように大事に育てられ、巣を大きくする人たちもいる。育てた巣の大きさを争うコンテストもあるようだ。
幼虫が一番美味しいのであるが、羽の生えた成虫も、炒って甘辛く味をつけると香ばしくて、また幼虫とは違う歯ごたえと味が楽しめる。これも、ガキの頃の思い出で、我家では時期になるとそういう類のものが食卓に出たものである。
ともすると、巣からピンセットでヘボを引っ張り出す時に、時として成長した若蜂がブンと飛び出し、そんな蜂に手を刺されながらも、文句も言わずやっていたお袋。ヘボの味はやはりお袋の味でもある。
堀江 陽平さん(S18)プロフィール
株式会社ワキタ商会 専務
趣味 スキー 料理(フランス料理から中国料理、日本料理まで なんでも)