vol. 65 石川 容子(G32)「南山とカウンセリングと私」 – Nanzan Tokiwakai Web
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2011年11月17日

vol. 65 石川 容子(G32)「南山とカウンセリングと私」

 素晴らしい経歴・肩書をお持ちになり、ご活躍されている方々に交じって、投稿させていただく機会を頂戴し、恐縮かつ光栄に存じます。
 
 私自身の人生を振り返ると、「親との葛藤の中で如何に自分を確立するか?」が大きなテーマでした(今でも発展途上中!?)。そして、「本当の愛とは何か?」「人間の成長を促進する育て方とは?」「よりよい人間関係を築くにはどうしたらいいか?」という課題が、さらなる探求の対象となっていきました。それらの課題を解くのに絶大な貢献をしてくれたのが、南山で過ごした日々と、カウンセリングやPCA(パーソン・センタード・アプローチ)との出会いでした。
 
 小学校高学年ごろから、親、特に母親との価値観が合わないことが悩みの種でした。親の考えに異論を唱えると、「言うことを聞かないなら、もう知りません。勝手にしなさい!」「世の中が自分中心だと思ったら大間違いよ!」「そんなわがままでは、世の中に通用しませんよ!」という脅し文句。なので、「自分の感じていることがおかしいのか?」「思ったことを話しても受け入れてもらえないのではないか?」と不安になって、ずっと自分に自信が持てませんでした。
 保護者面談があると、いつも担任の先生からは「本当にいい子です。お嬢さんは大丈夫です」と褒められるようで、親は得意顔で帰ってくるのですが、家では「わがまま」と叱られ、「反抗する自分は悪い子なのか?」と思っているので、「先生は本当の私を知らないんだ」と思い、人から褒められても素直に受け入れられませんでした。しかしそれは、一緒にいる人によって自分がまったく違う側面を見せているのだということでもあり、「ありのままの自分を分かってくれる人がほしい!」という強い願望が芽生え始めました。
 
 その頃、大好きだったテレビ番組が「大草原の小さな家」。大らかで頼りになる父さんと、賢くて優しい母さんが、子どもの話をよく聴いて、気の効いたアドバイスで望ましい方向に導き育て、子どもがのびのびと成長していく様は、何と理想的に思えたことか!
 
 そんな私が、親の勧めで南山中高女子部に入学し、在校中は、放送部員として約6年間、朝と帰りのお祈りをマイクを通して読み上げる、という役割を担っていました。祈りの言葉を自分なりに理解しようと努め、その意味を噛みしめながら、心に刻みました。神様はこんな私でも愛して下さっている。私はいかに生きるべきか?自分が人々のためにできることは何か?人間の尊厳とは?・・・多くのことを教えられ、考えさせられました。
 そして、理想のお父さんのような、大好きな先生との出会いがありました。その先生は、思わず納得の素敵な考え方をされていて、お話をお聴きするのが楽しみでした。英語の先生なので、一生懸命勉強して、英語が大の得意科目となったことは言うまでもありません。
 親戚に医者が多く、親は私にも医者になって欲しいと言っていましたが、その理由は「自分が病気になった時、すぐに診てもらえるから」・・・。私にとってはそれよりも、自分の気持ちを分かってくれる人の存在が、健やかな心身の成長のためにどんなに大切かを思い知っていたので、「よし、自分は子どもの気持ちがわかる大人になろう!」と心に誓い、仕事をするなら学校の先生になろうと思っていました。
 
 さて、大学では親元を離れるため上京しましたが、「女は25歳までに結婚するのがいい」という親の古い考え方に基づき、大学4年からお見合いが始まりました。こればかりは相性もあるので、なかなか話がまとまらないまま卒業となったのですが、「相手の男性の都合(海外赴任など)にいつでも合わせられるよう、拘束される仕事はしないように」と言われていたため、就職活動もろくにしませんでした。幸い、南山中高の数学科非常勤講師のお話をいただき、国際部で4年間、男子部で3年間、お世話になりました。

 教員時代は、「生徒の悪口を言わない先生」、「よく話を聴いてくれる先生」、「指導力のある先生」との評価をいただいていました(ですよね…!?)。この時期に、同僚の先生から「石川先生に向いているんじゃないか」とご紹介いただき、出会ったのが「カウンセリング」。男子部の保護者向けの「よりよい人間関係のためのカウンセリング講座」に参加した時、「これが私の求めていたものだ!」と衝撃が走り、その先生の研究所の「カウンセリング研修会」に通い始めました。
 
 このカウンセリング研修会では、アメリカの心理学者、カール・ロジャーズによって提唱された「来談者中心療法 Client-Centered Therapy」に基づいた、日本人による昭和20年代からの実践のたまものとしての「来談者中心カウンセリング」を、体験学習に重きを置いて研修しました。それは、言葉による説明や理解には制約があるからこそ、なのですが、おおざっぱに言うと、「すべての人の、すべての行動は、その人にとって重要な意味がある」とし、「人間は、成長し、発展し、成熟し、適応しようとする、潜在的な資質を持っている。その資質は、その人にとって重要な他者から信頼され、尊重され、受容され、理解された時に、顕著に発動する」という仮説に基づくものです。このような「人間尊重の人間観」の上に立って、その資質が発動するために必要な、成長促進的な「態度的条件」を提供しようとする試みが、「カウンセリング」と呼ばれる実践であるといえます。具体的には、1.「カウンセラーの一人の人間としての純粋性・真実性」2.「クライエントの存在に対する無条件の肯定的関心(受容)」3.「クライエントの内的経験への共感的理解」を、できるだけ継続的に体現できるようになることを目指します。「受容」と「共感」という言葉は、現在ではよく見聞きされるようになりましたが、言うは易し、行うは難し、です。
 
 研修会では、ペアとなってカウンセラー役とクライエント役を体験したり、グループでの話し合いをしたりする中で、よりよい聴き手になるためには、まず自分をよりよく理解することが必要だと、参加者の誰もが気付きます。「カウンセラーの資格」が世の中に氾濫していますが、知識偏重で、この自己鍛錬の部分をおろそかにしているのではないかと思われる「専門家」が多いように感じます。私自身も、この研修会の温かい風土の中で、ありのままの自分を見つめ、受け止められる経験を重ねて、「これまで感じてきたどんな感情も、自分がおかれた環境の中では必然であった」と思えるようになりました。そして、自分が深く悩んできた経験が、問題を抱えて悩み苦しむ人を理解し、前向きに歩き出すお手伝いをするために、決して無駄ではなかった、むしろ、とても役に立つということが分かり、このカウンセリングを「ライフワーク」にしようと決意しました。
 
 1998年、各自のペースで学ぶこのカウンセリング研究所で5年過ごした時、「サブカウンセラー」の称号をうけ(実際のクライエントさんとお会いしてもいい、という実力をつけた証。「サブ」は駆け出しという意味)、素質を見込まれ、将来を嘱望されていましたが、2000年に、理由も告げられずに突然の破門状態に。他の人は気付かない、または表明しない、先生の言動の矛盾を指摘したりしたためか、それとも、ぬるま湯に浸かっているような研修会から外の世界に飛び立つようにという親心なのか、未だに分かりません。それでも、自信のなかった自分が、1999年以降、さらに心理学・精神医学の広汎な理論的背景を身につけるため大学に編入した後、それに飽き足らず、アメリカ・イギリスへ留学する決意ができたのも、破門された経験があったからかもしれません。とはいえ、実践的な研修会で体得したものが自分の軸となっているので、学問の世界では色々と疑問を投げかけたくなるような場面も多々あり、これまたなかなか波乱万丈な歩みでしたが、そんな中で、本当に自分を信頼するということができるようになったのも、貴重な経験でした。
 
 2004年に帰国して、心理学とカウンセリングのプロとして就いたお仕事は、就学前児と小学生のためのスクールカウンセラー(心の相談員)。子どもの健やかな成長のお手伝いができる、願ってもない貴重な機会をいただきました。その頃すでに、公立中学校でスクールカウンセラーが全校配置となっていましたが、「中学校で問題とされる現象も、その起源はそれ以前に潜んでいるであろう」という教育長とのご縁があり、「必要なのは資格ではなく人である」というお考えのもと、それまでの経験が認められ、採用となりました。学校現場では、子どもからの相談はもちろんのこと、保護者や教職員から、子ども理解や接し方のご相談を受けるというものです。初年度から難しいケースと出会い、首尾よく望ましい方向へ導いたということもあり、信頼をいただいて、現在まで続いています。
 
 お気づきの方もあるかと思いますが、先の「カウンセリング」の考え方は、南山学園の教育理念である「人間の尊厳のために」と大きく重なり、「自分とは異なる他者の意見や価値観、文化や宗教などの、立場の違いを超えた理解や尊重」のためにも、とても有効なのです。私にとっては、まさに「愛」の実践のための有効な手段を得た!という実感があります。そして世界中の同志の集まりに参加すると、教育・心理の世界にとどまらず、看護・福祉から民主的な組織・社会実現にいたるまで、さまざまな分野で適用されています( PCA パーソン・センタード・アプローチ)。この考え方を取り入れた、アメリカのオルタナティブ・スクールでのインターン研修も、学校現場での対応に、とても役に立ちました。
 
 学校現場での手応えから、2007年には、広く一般の方からのご相談にも応じることができるよう、名古屋市名東区に、ささやかなカウンセリング・ルームを開設いたしました。そして、カウンセリングのみならず、「暮らしに役立つ!カウンセリング研修会 『よりよい人間関係のためのコミュニケーションを磨く』」も行っております。ご興味のある方は、ぜひお問い合わせください。
 
長文を最後までお読みいただき、ありがとうございました。
 
 
プロフィール
 
心理カウンセラー/コミュニケーション・コンサルタント
「カウンセリング・ルーム アセント」主宰
公式ブログ http://ameblo.jp/crascent/
 
上智大学理工学部数学科卒業後、
南山中・高「数学」教員時代からカウンセリング研修を始め、
その後、大学に編入し心理学専攻(認定心理士取得)。
アメリカ・イギリス留学を経て、
2004年より、愛知県西加茂郡藤岡町の「就学前・小学校スクールカウンセラー」
2005年の市町村合併にともない、豊田市の「心の相談員」となり、現在に至る。
「診断がつく・つかない」にかかわらず、
子どもから大人まで幅広く対応できる心理カウンセラーとして実績を重ねる。
よりよい人間関係のためのコミュニケーション指導も行う。

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