2012年7月28日
8年ほど前、ご近所の顔役の方から「保護司になってもらえないか?」という話を頂き、どんな仕事か詳しくわからないまま、軽い気持ちで受けさせていただいた。
「保護司の仕事とは?」、問われてもその内容を詳しく知っている方はそんなに多くは無いと思う。私も「知らない人」の1人であった。簡単に言えば、不幸にして非行・罪を犯した少年・成人の更生を助け、非行や犯罪の無い社会実現を目指す仕事である。身分は、非常勤の国家公務員でボランティアである。現在全国で約48,000人が活動している。
通常の仕事は、保護観察処分(詳しくは法務省のHPをご覧ください)となった地域の少年・成人(以下「対象者」という)を普通の社会生活を送らせながら月2回程、我が家に呼び「面接」を行う。時として対象者の家に出向くこともある。「面接」では、「日々の生活状況」「就学・就労状況」「家族・友人関係」「遵守事項(保護観察開始時に約束事が決められている)の履行状況」等、話を聞いていく。未成年の場合、基本的にはこのような往来訪が20歳の誕生日を迎えるまで続く。対象者の殆どが未成年である為、話についていけない事もしばしば・・。「どこの中学?」と聞いて「おな中(ちゅう)(同じ中学校という意味)」と答えられ「どこにあるの?」と真顔で聞いたこともあった。恋愛相談をされたこともあった。綺麗(?)な模様を体に入れ、その感想を求められたことも・・。決められた日以外も頻繁に我が家に来て、たわいもない話を一生懸命する子もいた。
しかし、このような話が出来るようになるには信頼関係の構築が不可欠であり、最初の課題でもある。ともすると親子ほど年が離れているのでついつい説教染みてしまうが、私は彼等の話に真剣に「耳を傾け」できる限り「受け入れ」「認め」「信じ」「聴く」ように努めている。対象者の多くが社会から疎外された存在であり、誰かに話を聞いてもらう機会が疎遠になっている場合が多い。孤独な子も沢山いる。
故に、私という存在を頑なに拒否する子も少なからずいる。1カ月に2回程度のお付合いで「何でも話して!!」と求めるにはかなり無理があるのも事実である。こちらの話に「はい」「いいえ」しか答えず、困り果てたことも何度もあった。
保護司になって良かった事は、立派に更生し社会の一員となって活躍している姿を見る事である。しかしながら再犯をおかす対象者も少なくない。そんなとき、自分の力不足を痛感してしまう。
「犯罪・非行の無い明るい社会」になれば「保護司」は必要ない存在となる。私も含め「保護司」全員がそれを望んでいるが、実際は中々難しい。世界一安全と言われた日本の治安が今、揺らいでいるのも事実である。
先日、20数年ぶりに母校を訪ねた。正門は鉄の引き戸で閉じられ、横の通用口から入った。防犯上致し方ないだろう。
ある先生が「今の中高生は、昔と比べると大人しくなった」とおっしゃっておられた。先生方にしてみれば「扱いやすい生徒」であろう。しかし言葉を返せば「何を考えているのかわからない子が増えているのか?」と心配になってしまった。我々の時代、横道に逸れそうな友達がいても親が修正してくれた。友達が心配してくれた。先生が叱ってくれた。地域のお節介焼きが叱責してくれた。
「個」が尊重される時代、ともするとこれらは「余計なお世話」と一笑されて「行き過ぎた指導」と叱られてしまう。
淋しく思うのは私だけだろうか・・・
今日も又、対象者が我が家へやってくる。元気な顔を見せてくれることを願い、待っていよう。
プロフィール 尾中 法さん S38
1986年 南山男子部卒業
1990年 大谷大学文学部卒業
1993年 真宗大谷派 明法山徳法寺第十七世 住職 襲職
1993年 学校法人 明法学園学園長 就任
2004年 保護司 拝命