vol. 5 三浦 和人(S15)「法律について」 – Nanzan Tokiwakai Web
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2005年10月1日

vol. 5 三浦 和人(S15)「法律について」

1.世界最古の法典は、今から3700年前のハンムラビ法典と言われています。石に刻まれた法典で、現在ルーブル美術館に展示されています。実際にはもう少し古い法典も現存が確認されていますが、今回のイラク戦争と、引き続くバグダッドでの国立博物館の略奪などがあり、現在では資料がかなり散逸していると思われます。ハンムラビ法典は一般に「目には目を」といった記述から・復讐の法典といわれますが実際は違います。
 法典の目的は弱者を強者の恣意から守ることにあります。また客観的に、行為に対応した処罰ないし処置であって、人々に見通しのよい、理解しやすいものとなっています。ハンムラビ法典は法律というよりは過去の裁判例を掲げ、行為の規準として求めたものです。この法典の後書きにハンムラビは『強者が弱者を損なうことがないために、身寄りのない女児や寡婦に正義を回復するために……国民のために判決を与え、国民に対し決定を下すために虐げられた者に正義を回復するために、私は私の貴重な言葉を私の碑に書き写し、正しい王である私のレリーフの下に置いた』としています。
 前文のハンムラビ王の国の確立のために果たした役割に始まり、判決集が記載されています。
 「もし人が強盗を働き捕らえられたなら、その人は殺されなければならない。強盗にあった人はなくなったものが何であれ、神の前で申告しなければならない。そして強盗が行われた地の市と市長は、彼のなくなったものは何であれ彼に償わなければならない。もしなくなったものは命なら、市と市長はその遺族に銀一ナマ(500グラム)を支払わなければならない」
 これは、犯人が捕らえられて処刑された場合はそれで正義が行われたとし、犯人が捕まらなかった場合には被害者に補償するというもので、現在の被害者救済の制度と同様のものです。
 この法典では製造物責任についても記載されています。
 「もし大工が人のために家を建てたが彼が自分の仕事に万全を期さなかったので彼の建てた家が倒壊し家の所有者を死なせたら、その大工は殺されなければならない。もし大工が万全を期して建てなかった家が倒壊したら、彼は彼自身の財産で倒壊した家を建て直さなくてはならない」
 また医療過誤についての記載もあります。
 「もし医者がアヴィールム(上層市民)に青銅のランセット(手術用の小刀)で大傷を負わせ彼を死なせたら、彼らは医師の腕を切り落とさなければならない」
 上層市民とは区別される奴隷については銀による補償を求めています。

2.ハンムラビ法典は3700年前ですが、現在の我々の考え方と共通する面もたくさんあります。
 犯罪被害者の救済についても製造物責任についても我が国ではつい最近の立法です。人間の考える正義、公平といった考えは3700年前と今でもそれほど変わらないのではないかとも思います。
 犯罪に関する刑法、経済に関する商法についても、次第に国際的規準が求められるようになってきました。その国際的規準とは要するに、明確な定めがあり誰でもアクセス可能であって、当局のさじ加減で物事が定められないということです。当局のさじ加減で何とでもなる社会は汚職の温床となり、経済の自由な競争を阻害します。「目には目を」との表現は一見残虐ですが、目以外のものを要求されることがないという意味では、被害に対応するさじ加減のない処罰です。
 よい法律とは、事前にアクセス可能で誰にでも理解できる、公平と正義に合致する法律ということで、この規準のなかで人は事前に合理的に判断して自らの行動を規律し得るということです。

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