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2017年7月30日

vol. 122 佐藤 晃子(G41)「生涯学習の楽しみ」

 私は今、美術品の見所を解説する仕事をしています。今までは本や雑誌に原稿を書く仕事がほとんどでしたが、最近は、カルチャースクールなどで美術鑑賞のポイントをレクチャーする仕事が増えてきました。スライドで美術品を映しながら解説をするのですが、受講生の皆さんの年齢は幅広く、30代から80代の方までいらっしゃいます。
 
 熱心な方が多く、皆さん口を揃えて「美術品を見るのは好きだけど、詳しくはないから」とおっしゃるのですが、それは謙遜です。物知りな方ばかりで、海外の美術館を私よりもずっと多く見ておられますし、読書家だったり、ご自分でも絵をお描きになったりと、多才でアクティブなのです。私は今40代ですが、皆さんのように
活動的な60代、70代になれたらいいなと、憧れ、目標にしています。
  
 一方、30代の若い受講生さんも、仕事が忙しい世代だと思うのですが、休日に美術館をまわったり、専門書を読んだりと、知識を得ることにとても熱心です。
私は一度、「お仕事ではないのに、なぜそれほど勉強熱心なのですか?」と聞いたことがあるのですが、お聞きした方は次のように答えてくださいました。
  
「今まで作品を見るとき、好きか嫌いかだけで判断していたけど、知識があった方がもっと楽しめると思うし、これから年をとるにつれて経験を積めば、美術鑑賞がよい趣味になるんじゃないかと思って」
  
 これはまったくおっしゃる通りで、美術鑑賞のコツは、数多くの作品を実際に見ることだといわれます。色々なジャンルの作品を沢山見れば、それぞれを頭の中で比較することができ、作品の良し悪しなど、見分けがつくようになります。
さらに美術書なども読めば、より一層見る目が養われていくのです。
  
 そのためには、まず、展覧会に足を運ぶことが必要になります。美術館だけでなく、拝観したい仏像がお寺にあれば、お寺まで出向いてもいいですし、教会に好きな宗教画があれば、思い切って海外まで旅をしてもいいでしょう。現地で絵を見れば、その絵の大きさや色合い、絵にどのように光が差し込むのかなど、画集で見ていた
だけではわからない生の情報を得ることができます。
  
 このように楽しみつつ、美術品を見てまわれば、「目の貯金」は確実に溜まっていきます。専門家ほど、膨大な画像のデータベースが頭の中にあるため、初めて見た作品でも「○○に似ているが、ここが新しい」「この作家は過去の△△を見て、この作品を作っている」などと、瞬時に判断できてしまうのです。そのレベルまで目の
記憶が蓄積されれば、どれほど美術鑑賞は楽しいものになるでしょう。
  
 また、美術品を見るためには外出しなければなりませんから、美術鑑賞を趣味にすると、自然とよく歩くようになります。大家と呼ばれる美術史家の先生方は、実年齢よりも若々しい方が多いのですが、私は「先生方が美術館の中をよく歩いておられるからではないか」とひそかに思っています。
  
 以上の理由から、美術鑑賞は年をとるにつれて知識と経験が積み重なり、楽しみが増すよい趣味になるだろうと私は思っています。私も皆さんに遅れをとらないよう、勉強しなければなりませんので、展覧会に行ったり、画集を見たり、論文を読んだり、今も地道な作業を続けています。
 
 時々ふと、なぜまだこの年になっても勉強しているのかと思いますが、不惑の年をすぎ、子育て中の今も、美術館や図書館にこもっていた学生時代と変わらない暮らしをしていることを、ありがたくも思うのです。
 
 
 
佐藤晃子 プロフィール
 
美術ライター
日本、西洋の絵画をやさしく紹介する入門書を執筆
明治学院大学文学部芸術学科卒業
学習院大学大学院人文科学研究科博士前期課程修了
 
『名画のすごさが見える西洋絵画の鑑賞事典』永岡書店 2016年
『名画謎解き鑑賞』KADOKAWA/中経出版 2015年
『画題で読み解く日本の絵画』山川出版社 2014年
 
 
 
 

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