2010年6月4日
連休明けの穏やかな午後の陽射しの中、名古屋高速を飛ばし、清須(旧・清洲)インターを降りて車を走らせること数分、麒麟麦酒の工場近くに、今回の「タウンぶらぶら」の訪問先である株式会社「タチ製作所」はありました。
会社外観
「株式会社タチ製作所」本社〒452-0933 愛知県清須市西田中長堀47-1
TEL:052-400-6151(代)
FAX:052-409-0043
タチ製作所遠景
伸びやかな清洲の台地に、遠くからでも”TACHI”の文字のある大きな工場を見つけることができます。2000坪の敷地に、本社・3棟の工場が並び、社 旗が初夏の風をうけて翻っています。その中ほどに、大きなクロガネモチの木を囲んだ花々溢れるベンチがありました。緑の木陰の下、手入れの行き届いた花た ちに目を奪われていると、「お花、きれいでしょう?気付いてくださって、ありがとう」と声がかかりました。美しい声の主は「タチ製作所」の舘まち歌(まち こ)社長です。
舘 まち歌 社長。
後ろの壁には、ISO9001認証登録証明書が掛けられています。
長女・舘 智有里(ちゆり)さん(G47)は、慶應大学卒業後、現在、テレビ朝日に勤務。番組制作に携わっていらっしゃいます。
「タチ製作所」は、64年前、初代の舘 金吾社長が「タチ商会」として、名古屋の熱田に工場を設立。後に現在の住所に工場を移し、今の社名に変更。以来、自動車部品をはじめとする各分野の産業機械部品など、幅広く生産しています。
「タチ製作所」の伝統的生産品であるトランスミッション・ギアは、日産から受注していましたが、今では主に、ヨーロッパへ輸出。1秒に1500発の穴を 開けるマイクロレーザー加工機は、米国や中国に。かっては柱のひとつだった、軸がテコの原理で動く、エスカレーターや動く歩道に使われるステップ軸は、今 は、中国の安価な生産力に押され、現在は特殊仕様のもののみを生産しているとか。
ミッションギア・ラインの最初の機械。
扉の中に材料(鋳物の輪)を投入しておくと、機械が自動的に材料をひとつづつ拾い上げ、加工していきます。
ミッションギア・ライン。
部品は、全ラインを自動的に移動し、加工されます。
ミッションギア。完成品です。
人手を要する精密部品加工は、高価なNCマシンを導入し、組み合わせて複雑な行程を24時間無人で運転するしくみも実現されているそうです。それは、社長 いわく「会社の規模の割にNCマシンが多いのは、銀行さんが驚くほど」で、確かに、社員数105名の会社とは思えないほど、工作機械が充実しています。(ホームページ参照)
各種工作機械
製品は、金属加工機械を使った、エアコン・ロボット・工作機械などの部品から、作業者による組み立てが必要な小部品、さらに大きなパンなどの食品包装機械やレーザー加工機まで、製品種類・製造方法・生産方式まで、多種多様です。
とりわけ得意とするのは、鉄の塊を精密に切削する高精度品。その品質と精度は、日本ならではのもので、海外の追随を許しません。
時代の流れとともに、扱う製品が変わり、たとえ景気が冷え込んでも、変わらぬ企業理念は、「心をこめて高度な技術を!」「ゆとりある家族的な職場を!」です。
「うちの会社の面白いところは、社員のみなさんの趣味を応援していること。例えば、ヨットやボーイスカウト。そのための休暇は、多めに取らせてあげてい ます。働いてくれる人たちの人生の余暇や健康管理はもちろん、ゆとりある豊かな人生を保障するのが、会社そして社長の務めでしょう?」・・「働く女性の支 援もしてあげたい。育児休暇が1年半の女性社員さんもいますし、ご主人が事故に遭ったアルバイト社員さんは、経済事情をくんで正社員にしたこともありま す」・・「でも、今は、不況の時代。経費の削減など、見直しは必要で、今年の春からは、お茶やお弁当手当てなど、擁護していた余分な過保護はやめにしまし たが、文句をいう社員は、いませんでした。その分、基本給を確実にして、従業員の生活を守ることが大切ですね。お陰で、この4月は、ベースアップもできま した」。その微笑みには、人を包み込むような天性の社長オーラを感じますが、実は、まち歌さんは、まだ就任6ヶ月めの新米社長なのです。
平成7年、全国労働基準関係団体連合会「ゆとり創造賞」を受賞。
平成20年 人づくりモノづくり道場開設。この道場の主軸は「人づくり」。熟練社員が技術・行動の基本を若手社員に教えます。
先代で、まち歌さんのご主人である舘 健吾社長が、お父さまとお母さまから「タチ製作所」を受け継いだのは、昭和59年。油まみれになって働く従業員のために、40年前にいち早く給湯設備や冷 暖房施設を完備したという健吾社長は、当時から、従業員のための職場作りを貫いていらしたそうです。その健吾社長が、脳梗塞で倒れたのは4年前。”車椅子 の社長”として会社を牽引しながら、車椅子を押して支える奥さまに、会社内外のことを、いつも話しておられたそうです。ご主人亡き後、「この車椅子の会話 が、主人の遺言に思えました。きっと主人は、私にこの会社を託したいと思っている。と気付いたから、泣いてばかりの心のギアをいれかえて、宿命を受け入れ ようと思いました。幸い、2代目社長だった義母の介護をしていた数年間、義母からも多くの教えを受けました。それに、何より、信頼できる社員がいてくれ る。モチは餅屋。私は、金属のことは、何もわからないけれど、無理に覚えようとせず、だからこそ、各部署で徹底的に信頼できるスタッフに、責任と権限を与 えることができるのです」
社長自らの案内で、工場内の各施設を回った時、その企業理念の実践を感じることができました。大きな機械が林立する工場内にあっても、巨大なシステムを 支配するのは、まさしく”人”であり、作業の手を止めることなく交わす会釈にも、仕事への誇りや責任感や充足感が溢れているように感じられます。
その秘密のひとつは、社内で行われている「小集団活動」にもあるようです。それは、部署や役職に関係なく、小集団を編成して自主的に行う「社内の改善活動」や「ボランティア活動」です。
例えば、ペットボトルのエコ キャップ収集、日差し対策、段ボールの再利用、マイ箸運動、下駄箱や野外照明の設置など様々。面白いのは、今年度の小集団 を結成するための条件は、各集団の平均体重が同じになることだとか・・(笑)。この結果、社会への貢献や、社内の衛生・美化の強化はもちろんのこと、その 過程におけるコミュニケーションが、各部署間の交流をより円滑に、より緊密にしてくれます。その活動の成果は、「小活動 発表祭」で評価・表彰されるそう ですが、「発表『祭』と、『お祭り』にすることで、楽しくできるでしょう?」と、又、社長の笑顔がはじけて、あのクロガネモチノ木の下の花たちも、ベンチ の上の屋根作りも、この「小集団活動」の賜物だと知りました。そして、「クロガネモチ」は赤い実をつけ、「鉄もち」と書くところから、先代の社長が、鉄工 所には縁起が良いと植えたシンボルツリーだったのです。
社長は社員100人の家族構成をすべて把握しています。何でも声に出して「風通し良く」するのも社長の仕事のひとつ。
「常盤会の取材」という社長の声に反応してくれた松代芳典さん。お兄さんの英揮さん(S46)が卒業生でした。
まち歌社長のご趣味は、絵画鑑賞・ガーデニング・ゴルフ。
「うちの会社は、先代の社長時代から接待下手(笑)。でも、新しい企業の社長さんたちと、最近、ゴルフも始めたの。社内と社外の、人と人を繋ぐのも社長 の役目。でも、公私混同は絶対ダメ。業者からのモライ物もお断り。不正や悪の芽を断ち切ったクリーンな体質。社交術より技術で勝負の会社。それが先代社長 の夫から受け継いだもの。そして、一人で住むには大きすぎる家とふたりの娘たち。娘のどちらかが、『ママ、頑張ってるね。社長業って面白そう』と興味を 持って継いでくれたら幸せね」
居心地の良い空間から、夕暮れの社外に出ると、シンボル ツリーの下のベンチに憩う社員さんの姿がありました。そこに 気さくに声をかけてから、バックミラーにいつまでも、手を振ってくださる まち歌社長のシルエットに、思わず声が出ました。
「企業は、人なり」・・と。益々のご発展をお祈りいたします。
用語説明
ISO9001: 「組織が品質マネジメントシステム(QMS: Quality Management System)を確立し、文書化し、実施し、かつ、維持すること。また、その品質マネジメントシステムの有効性を継続的に改善するために要求される規格で す。具体的には、品質マネジメントシステムの有効性を改善するため、プロセスアプローチを採用し、組織内において、プロセスを明確にし、その相互関係を把 握し、運営管理することとあわせて、一連のプロセスをシステムとして適用します。」
要するに、高い品質の製品やサービスを提供し続けるしくみを構築している会社に与えられる証明書です。
NC: NCは numeral controlの略で、「数値制御」のことです。通常、「NCマシン」のような使い方をされます。この場合、機械がものを加工するにあたって必要なすべての情報を数値信号で与えるようにした工作機械のことを言います。
NCマシンがなければ、作業者が機械を直接操作して加工をすることになります。
(取材:塩野崎、川島)