2022年3月26日
「5月35日」
Pカンパニー第35回公演-シリーズ罪と罰CASE10-
日時:4月20日(水)~4月24日(日)
会場:東京芸術劇場シアターウエスト(東京都豊島区西池袋1-8-1地階)
詳細
http://p-company.la.coocan.jp/p35.html
*** 竹下景子さんからのメッセージ(一部抜粋)***
そこここに梅の香が漂う頃となりました。お変わりなくお過ごしのことと思います。そう綴る一方で、昨日と変わらない日常がどんなに大切で愛おしいものか、当たり前の生活がいかに脆く崩れ去ってしまうのか、世界を揺るがすような出来事に胸がつぶれそうになります。こんな時だから「言葉」の力を信じたい。対話こそが人類に託された素晴らしい叡智だと思うのです。
春の公演のご案内です。『5月35日』。香港の劇作家による天安門事件を題材にした作品です。香港での初演は、香港市民の表現の自由が中国政府によって奪われていく中、香港舞台演劇賞で最優秀脚本賞をはじめ五部門を受賞しました。厳しい環境下で上演を許可して下さっ た莊梅岩さんと、香港と日本の架け橋になって下さった劇作家・小説家の石原燃さんに心から感謝しています。そして、いち早く日本初演を決断した主催 Pカンパニーの林次樹さんにも。
2019年正月。80歳になろうとする小林(シウ・ラム=竹下景子)は脳腫瘍で余命3ヶ月だと知らされます。同じく夫の阿大(ア・ダイ=林次樹)も大腸がんを患っていました。二人の老人が病気で死ぬのは自然なこと。実は、たった一人の最愛の息子哲哲(ジッジッ)は 30年前に不自然な死を遂げており、そのことが長い間、夫婦に暗い影を落としていました。人生の最後に、小林はそれまで自身を責め苛んできた全ての思いを解き放ち、亡き息子との再会を決意します。そして、二人は互いに約束するのです。5月35日の「その日」に正々堂々と息子を天安門で追悼する―
親が先に逝った子どもの魂を抱きしめる。悼む気持ちは当たり前です。この物語は、空白の30年を取り戻そうとする夫婦の普遍的な物語です。何物にも屈しない一途な愛の物語です。
最初にこの戯曲を読んだ時、私には当たり前のことをするのに、何故こんなにも命がけなのか分かりませんでした。この夫婦が生きてきた80年間の中国の出来事を調べるうちに、体制の推移、それにともなう市民生活の変化と国による管理統制。今の日本で暮らす私達には想像しがたいほどの中国の実際が分かってきました。
でも、そんな抑圧された日常の中でも小林のように声を上げることを諦めない人はいる。この戯曲はそのことを示唆していると感じました。私達は親を選べない。同じように生まれる国も選べない。けれど、その事に負けはしない。凛として生きる姿は光を放っているように見えます。かそけきその光を、人は「希望」と呼ぶのではないでしょうか。
限りなく世界と自分の「今」を感じさせてくれる1時間半です。劇場でお待ちしています。
如月 晦日に 竹下景子