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2006年10月5日

vol. 15 遠藤 由佳(G32)「癒しの馬」

 今時のOLに、やってみたいスポーツは?とたずねると”ヨガ”や”バレエ”などに混じって “乗馬”が上位に入っているといいます。また、屋内で乗馬のフィットネスができる”ジョーバ”や”ロディオボーイ”といった健康機器まで出ています。それを聞いて時代は変わったと思うのは、年を重ねた証でしょうか。
南山在学中であった四半世紀前の世間では、「馬に乗って気持ちいい汗ながしておりますの」なんて、究極のお嬢様が言うことだわというイメージが強かったですから。
 さて、アニマルセラピーという言葉をお聞きになったことがあるかと思います。
セラピー犬の活躍はよく耳にするところですが、自閉症や運動器障害を持った人のセラピーとして”乗馬”が取り入れられているのはご存知でしょうか。ピュアな動物達と触れ合うこと、特に”乗馬”の場合は、大きな馬に乗り、普段とは違う視点から周りを見ることや、体温の温もりを直に感じながら心を通わすのが良いとされています。
 馬は、身近なペット(家族という人も多々いますが)である犬や猫その他の愛玩動物同様に人の心を敏感に感じ取れる動物であるということでもあります。動物を扱った物語では、犬や猫同様になくてはならないキャストとして馬が登場するのは、情を通わすことが出来る賢い動物だからでしょう。
 古代より、馬はその優美さと聡明さゆえ、崇拝の対象になり、装飾品等のモチーフとしても用いられてきました。人と馬は、紀元前4,000年もの前から6,000年の間、共に暮らしてきたのです。
 さて、セラピーとしての”乗馬”に話しは戻りますが、よく調教された馬というのは、むやみに暴れたりはしません。もともと馬は草食獣であり、敵を見つけたらすばやく逃げるという本能はありますが、乗用馬については、状況を把握し騎乗者の指示に従うように訓練されています。
 そして、馬の歩き方には速度が遅い順に分けると常歩(なみあし)、速歩(はやあし)、駆歩(かけあし)があり、ゆっくりとした常歩でも、騎乗者は無意識に全身でバランスをとることになります。
 歩いている馬の鞍の上で全身の筋肉を使ってバランスをとるということは、体の軸である背骨から腰のラインを整えることになり、また、全身運動なので血行も良くなり、自律神経が活性化されるのです。
 一方、老若男女を問わずフィットネスとして行われている “乗馬”ですが、これも効果バッチリです。個人差はありますが、私の場合、大学の馬術部に入部してから、食事はきちんと摂っていたにもかかわらず半年間で5kgも体重が落ちたのには驚きました。馬とふれあって癒され、また、ダイエットにもなるなんて、一石二鳥ですよね。
 そんな馬好きが高じ、馬専門の獣医師として日本中央競馬会(JRAの方がわかりやすいでしょうか)に就職して14年が経ちました。競馬会なので、もちろん競馬の施行が中心事業です。 
 現在の日本の競馬は、随分様変わりしたように感じられます。レジャー色が強くなったとでもいいましょうか、スポーツ性が増し、近年はディープインパクトというスターホースの出現もあり、フランスの凱旋門賞で世界制覇なるかと話題も豊富です。(結果は残念ながら3着でした!)
 競馬会には、馬の研究所や馬の博物館があったり、全国の事業所には乗馬用施設もあり、競馬以外でも馬に関する事業であれば助成金も出していたりします。馬という動物をもっとよく知っていただきたいという関係者の思いが込められているのです。
 現在、私は東京都世田谷区に住んでいますので、JRA馬事公苑へは、子供達とちょっとした散歩や、乗馬にいっています。
 NHKの朝の連続ドラマ「ファイト」の撮影現場にもなった馬事公苑には、広大な敷地内に100頭余りの様々な種類の馬が繋養されており、彼らに触れ合えるコーナーや乗馬・馬車体験ができ、都民の憩いの場となっています。
 その他にも乗馬ができる施設は全国に数多くありますが、お勧めしたいのが、野外で馬を駆る外乗です。
 九州は阿蘇山の草千里の草原で、兵庫の三木山人と馬とのふれあいの森や山梨の八ヶ岳・御殿場の山中で、千葉では海岸沿い、北海道では函館大沼の羊蹄山、鵡川のケンタッキーファームの山や川べり等々での外乗は、数ある外乗コースの中でも面白いと思います。
 海外では、イギリスのハイドパーク、フランスのシャンティイの森やノルマンディの郊外等々、様々な場所で外乗を体験しました。草原で、アップダウンのある山道で、そして波と戯れながら海岸で、馬とともに風に吹かれるのは最高の気分です。
 乗馬を体験したことのない方でも、事前に30分くらい練習をすれば気軽に外乗に参加できます。外乗用の馬も騎乗者のレベルに合わせて選択してくれるので、まず安心。最初はちょっとおっかなびっくりだったりするのですが、その後には「こんな爽快な気分になれるんだー」と感じること、受けあいです。
 子供達がもう少し大きくなったら、モンゴルあたりにトレッキング(数日間、馬に乗って移動する)の旅に出掛け、馬頭琴の音色や満点の星空とともに、現地では馬が生活になくてはならない存在であるという空気感を是非体験してみたいと思っています。
 馬の中に癒しを求めて、まだまだ旅は続きそうです。

(G32、日本中央競馬会(JRA)勤務))

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