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2022年4月29日

vol.169 津川 園子(G16)「菜の花泥棒」 ネアンデルタールを走る楽しみ 

 初夏のような暖かい4月のある日、ネアンデルタールへ走りに行った。丘の上には菜の花畑が一面に広がっている。菜の花の背丈はすでに伸びているもののまだ開花前。
菜の花のお浸しにぴったり!ドイツ人は菜の花を食べないので、当然お店にも売っていない。考えてみれば、菜の花のお浸しなど、もう何年も食べていない。無性に食べたくなった。しかし、ずっと、菜の花畑を横目にみながら、摘んで帰ろうかどうしようか迷いながら走った。
 
 この菜の花は野生ではなく、商業(エネルギー燃料や食用油)用に栽培されているものなので、躊躇しつつ・・・でも、やはり食べたいという思いが益々つのり、菜の花畑が終わるところで、思い切って、決行することに。
 菜の花の先端部をちぎろうとしたが、これがなかなかうまくゆかない。ねじったり、ひっぱったりしながら、やっとの思いで、3本へし折ったところで、ふと後ろを見ると遠くに人影が見えたので、慌てて中止。
 苦労してちぎった獲物を、ジョギングパンツに挟んで、隠して走って帰った。
 もう少し沢山欲しかったけれど・・・それでも摘みたてなので、茹でて食べたら美味しかったこと!

 翌日、やはりもう一度あの美味しかった菜の花を、今度はたらふく食べたいと思い・・・第二の犯罪を実行することに。
 一回目のようにちぎるのに時間が掛かったり、苦労しないように・・・そっと、小さい折り畳みナイフをポケットに忍ばせて・・・一路ネアンデルタールへ。
 走りながら、ちょうどそのとき、人がいたら困るな・・・どうする?・・・犯行現場 をどこにしよう?・・・、やはり人が来ないか前後が見渡せる丘のてっぺんがいい?・・・犯行は手際よく行わなければ・・・うまくゆくか?・・・などあれやこれや考えながら走る。
 ドキドキしたり、緊張したり、まるで犯罪者の心境そのもの。
 
 その日は散歩の人が結構多かったので、丘の上の菜の花畑には人がいませんようにと祈りつつ、犯行現場に向かって行く。そうしたら、運悪く、一組の夫婦が向こうからノルディックウォーキングをしながらやってくるではないか。これはマズイ!と思い、その二人を通り過ごさせてから、人が来るかどうか、出来るだけ遠くまで見渡せる地点を探す。

 ここぞと決めた場所で、おもむろにナイフを取り出し、刃を引き出して、バサッ!なんと、気持ちよく切れることよ。快感そのもの!人影がみえないかきょろきょろしながら、素早く背丈の低い柔らかそうな菜の花を選んで、バサッ、バサッと次から次へと頭の部分を手早く切り取る。
 
 片手いっぱいになったところで、急いで、今回もジョギングパンツの間に挟んで、ヤッケで隠し・・・、素早く犯行現場を離れて一目散に逃げる。
 お腹の辺りがぷっくり膨れて、これじゃまるで妊娠5か月!ちょいと困ったなと思いながら、菜の花が落ちない様に片手でお腹の辺りを抑えながら走る・・・。
 しかし、人と出会うときは、手を放して、両腕を振って何食わぬ顔をして走り続けた。
 帰ってから獲物を数えたら、一回目は3本だったのが、今回は13本!やったぜ~!
 このようにして、くすめてきた菜の花の味はそれはもう格別で、量も一人では食べきれないくらいあって満足満足!!
 
 
 と大満足していたところでハッと目が覚めた!!えっ、夢?
 
 あまりの菜の花のお浸し恋しさ故に見た、美味しくもヒヤヒヤの長―い夢物語でした。
 
 
 津川 園子(旧姓 森)(G16)プロフィール
 
 南山大学文学部独文科卒業
 ドイツ大使館勤務
 通訳、翻訳、リサーチ・コーディネート、ドイツの児童書の翻訳
 1990年よりドイツ、デュッセルドルフ近郊に在住

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