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2023年10月15日

vol.184 高野 勢子(G26)「生物多様性って何?」

 最近、通訳の仕事で分野を問わず出てくる言葉がある。
「脱炭素」と「生物多様性」である。車の仕事でも、エネルギー関係、食品、化粧品、どんな分野でも、この2つの単語が出てくる。文脈は決まって、生物多様性を尊重しないと、今後どんどん生物が減っていくので大変だ、というのである。
 そこで、「生物多様性って何?」と考えさせられることが多くなった。多様な生き物が生きられる地球、それって、私たちの住んでいる場所とどう違うの?
 
 この夏、世界各地の山火事のニュースを訳すことが頻発した。その中で専門家のコメントが気になった。同じ木が植林されているため、火災が広がりやすいとのことである。木によっては水分を保つもの、そうでないものと、高温や乾燥に対する反応が違うのだそうだ。
 
 また、ルリタテハという大変美しい蝶がいる。本来、自然豊かな地域にいる蝶が、最近、東京で見られると聞いて不思議に思った。なぜ最近?コンクリートとアスファルトづけの東京に?蝶が飛ぶためには幼虫が生まれ、蛹になって、蝶になる。ルリタテハの幼虫が食べる草はなんと3種類くらいしかないそうだ。3種類!と聞いてかなりびっくりした。1日30種類の食べ物を食べましょうと言っている人間とはかなり違う。つまり、草刈りをして、そのよく知らない3種類ぐらいの植物を排除してしまったら、もうその蝶は生まれても育たない、絶滅するそうだ。
 ところが、そのうちの1つ、ホトトギスという植物は山野で見られる大変美しい花で、盗掘が絶えず、販売されて、東京に住む野草好きの庭に植えられ、なんと、ルリタテハも東京進出なのだそうだ。複雑な気分である。
 
 草刈りをすると、限られた強い外来種などの植物しか育たなくなり、ある特定の植物のみを食べて育っている昆虫がいなくなる。その昆虫を食べる鳥が減って、その同じ生息域で育つ生物が減り、生物多様性が失われるそうで、やっと身近な言葉として漠然と理解できるようになってきた。草が生えてくるのが面倒だからコンクリートで固めよう、とか、見栄えが悪いから草を刈ることは当たり前と思っていたので、驚きである。
 
 フランス人の友達の家では家の害虫駆除に、殺虫剤を使わない代わりに蜘蛛と共生しているのだそうだ。蜘蛛はダニや蚊、ゴキブリを食べてくれるらしい。イングリッシュガーデンのあり方も変わってきていると聞いて、また驚いた。イングリッシュガーデンといえば全部雑草は刈って、芝生を植え、左にバラを、右に切りそろえた植物があるイメージだった。が、最近は“雑草”を残し、真ん中に人が歩ける道をつくり、奥には切った小枝を積み上げ、動物が隠れる場所を作るものもあるそうだ。
そうすると庭にハリネズミもやってくる、とのことだった。朝起きて、鳥のさえずりが一切聞こえない都会というのは不気味なものだなあと最近つくづく思うのだが、庭づくりを変えると鳥が戻ってくるかしら?
 
 自宅近くの緑地も取り組みを始めていて、緑地の一部を囲って、石を積んだり、木の棒を置いたりして、さまざまな生物が生息することができるようにしている。頑張って!と応援している。
 
 そして、都市のこの暑さ、絶え難くなってきたが、庭に木を植えたり、コンクリに穴を開けて植物が生えてくるようにすると、雨水も地中に浸透するし、猛暑と大洪水対策なのだとか。「グリーンインフラ」というそうです。「グリーンインフラ」って最初に聞いた時はどんなインフラを建てるの?と思ったが、身近なところでいえば、庭に木を植えるとか、コンクリで覆った地面に穴を開けることだとか。
 
 人間のやることって一歩進んで二歩さがり、って感じなのかなと、「生物多様性」に思いを馳せながら、進歩しすぎて弊害がでると、後戻りして、考え直すものなのかな、と思うようになってきた。
 後戻りする勇気も必要かもしれない。
 
 
プロフィール
高野 勢子(たかの せいこ)(G26)
 
 1979 南山高校卒業 上智大学仏文科入学
 1984 フランス大使館 勤務
 1990 フリーのフランス語通訳
 TICAD首脳会議/G7大臣会合/即位の礼などの同時通訳

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