vol.198  横山 佳枝(G44)「―知っていますか? 「SOGI(ソジ)ハラスメント」―」   – Nanzan Tokiwakai Web
  1. HOME >
  2. メルマガコラム

メルマガコラムMail Magazine Column

過去に配信した「常盤会WEBメルマガ」の記事を掲載しています。

2025年3月9日

vol.198  横山 佳枝(G44)「―知っていますか? 「SOGI(ソジ)ハラスメント」―」  

 私は、2004年に弁護士登録をし、現在に至るまで東京の法律事務所で働いており、業務内容は企業法務から一般民事事件も含め多岐にわたります。2018年から、東京労働局の紛争調整委員として、東京労働局に申請されたあっせんや調停を担当することとなったことを契機として、ハラスメントの書籍の執筆、社内でハラスメントが発生した場合の社内調査、企業向けのハラスメント防止セミナーの講師という仕事もしています。
 
 セクシュアル・ハラスメント、パワー・ハラスメントは、ニュース等で報道されることが多いのでご存じの方が多いと思いますが、「SOGI(ソジ)ハラスメント」はお聞きになったことがありますでしょうか。「SOGI(ソジ)ハラスメント」の「SOGI(ソジ)」とは、「Sexual Orientation」(性的指向)、「Gender Identity」(性自認)の頭文字をとったものです。「Sexual Orientation」(性的指向)(「嗜好」ではないことに留意ください)とは、自分の恋愛・性愛の対象がどこに向かうかという性の方向性を示す用語です。つまり、性的指向が異性に向かう人は異性愛者、同性に向かう人は同性愛者、異性・同性いずれにも向かう人は両性愛者です。
 
 これに対し、「Gender Identity」(性自認)は、自分が認識する性(こころの性)を指す用語です。「トランスジェンダー」(「トランス」とはラテン語で「超えて」という意味です)は、身体的性(生物学的性)と自分が認識する性が一致しない人を指します。性的少数者の総称である「LGBT」の「L」とは「レズビアン」(女性同性者)、「G」とは「ゲイ」(男性同性愛者)、「B」とは「バイセクシュアル」(両性愛者)、「T」とは「トランスジェンダー」を指します。有名人でいえば、美輪明宏さんはゲイ男性、はるな愛さんはトランスジェンダー女性です。
 
 「SOGI(ソジ)ハラスメント」は、性的指向や性自認を理由としたハラスメントを指します。例えば、差別的な言動や差別的な呼称、いじめや暴力、望まない性別での生活の強要、不当な異動や解雇、本人の承諾なく性的指向や性自認を公表すること(アウティング)などです。例えば、「ホモ」、「レズ」、「おかま」などと侮蔑的な呼び方をすることや、自認する性と異なる性別による服装やトイレなどの設備の使用を強要することが挙げられます。特に、トランスジェンダーの方にとって深刻であるのがトイレの問題です。これについては、経済産業省のトランスジェンダーの職員(身体的性は男性、性自認は女性)が女性トイレの使用を制限されたことを理由として、国を訴えた有名なケースがあります。2023年7月に、最高裁判所は、当該職員の女性トイレの使用を制限することは違法であるとの判断を下しました。自認する性に沿った社会生活を送ることは、誰にとっても重要な利益であることを肯定したものです。
 
 また、アウティングについては、厚生労働省の指針において、パワー・ハラスメントに該当することが明記されています。未だ性的少数者の権利擁護に関する法的対応が遅れている日本では、自らの性的指向や性自認を周囲にオープンにしていない人が多く、アウティングは、当事者がそれまでに構築した社会における関係性を破壊するおそれのある行為であり、心身に甚大な被害を与えるものです。アウティングにより、精神疾患となったり、最悪の場合は自死するケースもあります。アウティングについては、一橋大学ロースクールの学生がゲイであることを他の学生にグループチャットで暴露され、精神不安定となり転落死した事件で、東京高等裁判所は、アウティングがプライバシー権及び人格権を著しく侵害する行為であることを初めて認定しました。上司にアウティングされたことにより精神疾患となり、労災と認定されたケースもあります。
 
 日本では、2015年に、東京都渋谷区及び世田谷区で、性的少数者のカップルの関係を認証する「パートナーシップ制度」が導入されましたが、国レベルでは、2023年に、いわゆる「LGBT理解増進法」が施行されたにとどまります。G7において、同性間の婚姻を法的に保障していない国は日本のみであり、欧米各国と比較し、性的少数者の権利擁護の法的保護の点で大きく後れをとっています。調査では、日本において性的少数者の割合は約10名に1人との結果が出されていることからも示されるように、気づいていないだけで、誰の周りにも性的少数者の方は存在しています。
 
 人生100年時代の到来により、性的少数者の方だけでなく、誰もがその人らしく力を発揮できるような職場文化や職場風土を構築することは極めて重要です。
 日本社会において、未だにハラスメント関連の不祥事が絶えないことは残念な限りですが、弁護士として、性的少数者の権利擁護も含め、ハラスメントの撲滅に向けて取り組んでいきたいと思います。
 
 
プロフィール
横山 佳枝(よこやま よしえ/G44)
 1997年 南山高校卒業
 2001年 名古屋大学法学部卒業
 2004年 弁護士登録(第二東京弁護士会)
 2010年 南カリフォルニア大学ロースクール(LL.M)留学
 2014年 ニューヨーク州弁護士登録
 2018年~ 東京都労働局紛争調整委員
 
 著書
 『ハラスメント事件の基本と実務』(共著/日本加除出版/2024年刊)
 『発覚から調査・解決まで職場のハラスメント対応マニュアル』(労働行政出版)

メルマガコラム一覧