2007年4月7日
「ヤコブの巡礼路」をご存知でしょうか。本来、フランスからスペイン北西部に走り、サンチャゴ・デ・コンポステラで終了する西洋のお遍路道です。現在までに、中世から各国で延長され、一部は衰微また再興され、という具合です。歩く、考える、ほんの少数手もちの物品で何週間をも森・山中歩き続けるという一種の自己犠牲。大変らしいのですが、最近、これを「やってきたワ」という人びとが思いのほか多く周りにあり、増加しているかナ、という印象です。
ドイツでは旧教の街ミュンスターやパダボーンなどがのる路もあり、長く忘れられてきた森の中の道路を再興、これに沿ってグルメレストランなどが生まれているという町もあります。ほたて貝はJakobsmuschelと呼び、これは巡礼たちが大きな貝殻を皿の代わりに携帯した必需品であった、と聞きます。また飲物用コップと緊急時の報知器に併用する陶製ホルンもシンボル、必須でした。
スペイン北部の綺麗な街、レオンでは金色の帆立貝模様を道路に埋めルートを表示してあったのを覚えています。フランスの海中に聳えるモン・サン・ミシェル寺院もそのルートにあります。健康意識高揚は世界中同じでしょう。
ま、なんと奇特な、ジョギングなんて、と言っていたのはもう大昔、今ではお金を払ってまで皆が機械の上で走っています。もったいない、そのエネルギ−を発電にでも再利用できないのかしら等と異議を唱えると、それこそケッタイなと思われるのでしょうか。
いずれにせよ、苦労して歩く、そして考える、そんな巡礼が、深海に潜るタイプの休暇と同等に高く評価されているのです。精神的内面生活充実を望む人々が増えているからでしょうか(イスラムの攻撃に対応しているかもしれません)。
欧州とはそもそもnation statesを超越したレベルを理念対象としていて、日本という「国」概念から離脱して考えることのできない者には理解がなかなか困難です。いわばかつての王侯貴族のパターンと考えるとわかりやすいかもしれません。
彼らはローカルでは動けず越境してはじめて利益連携・婚姻なども可能でした。そんな当時に欧州人であった彼女、死後教皇により聖人とされた后妃エリザベトはハンガリーの皇女(ウイーンのエリザベトとは違い、12世紀はじめの人物です)でした。
詳細は辞典で調べて頂きたいのですが、本年夏、新しいお遍路街道、貧しい人々に全生涯を捧げた彼女の生涯を辿るElizabethpfad が整備を終わります。ドイツ古都、アイゼナッハからマーブルクまで完了するのです。
アイゼナッハはマルチン・ルターが聖書のドイツ語版を翻訳した古城の街、ドイツ浪漫派本拠のひとつ、そしてドイツ大学学生団の発祥とドイツの旗の由来上重要な場所です。ルートは旧い豊かな地域、一部かつての東独南部を走り、古城などを伝って、’07年7月7日、聖エリザベト800年生誕日、マーブルクのエリザベト教会に巡礼団が到着の予定、とあります。マーブルクからフランクフルトまでの巡礼路はすでに92年に完成しているそうです。
「自己主張だけが取り柄の現代にあって貧者と病人に全身を捧げた彼女を偲ぶのは大切である」と、ドイツ新教教会がこの新規整備された巡礼路を強力に支援しているのが私には興味深く感じられます。
彼女は旧教徒として奉仕した聖人ですが、エキュメニーをも重視しているのでしょう。子供達が聖エリザベスに親しめるようにとゲームもあって、マウスを繰りながら、どうやったら病人を介護し、食料品を貧しい人に与えられるか、お蔵の物品をどうやったら食品と交換できるか、等が電子ゲームになっているそうです。
これも新教教会の電子メディア主管が開発させたそうです。現代社会における社会性・おもいやりの精神の涵養を子供達に新媒体で伝えるのに成功している、とのこと。これも興味ある報道です。皆様はどう思われますか。
個人的には、出張の後、列車で北ヘッセン州の丘・森に戻ってくると、これは確かに「美しい」と思います。日本の景色のように、どこかのスーパーとか海苔屋、お菓子屋さんの看板がありません。国土計画の意図・意思をしっかりと感じ取れる、それがドイツの都市計画・景観作りだと確信できるのです。多分、その中にこのお遍路道も考慮されているのでしょう。 (了)
(タイヒラー曜子さんのプロフィール)
日・独、日・英 公認・認証資格会議同時通訳者
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