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2014年12月22日

vol. 96 熊崎 智子(G24)「教育実践主義」

 みなさんは、はやぶさ2を知っていますか?そうです、つい先日、種子島宇宙センターからH-IIAロケットに搭載され打ち上げられた小惑星探査機です。という、ワクワクした書き出しですが、今回お話するのははやぶさ2の事でもなく宇宙の事でもなく、私の仕事の話です。すみません。
 
 何年か前に1度、コラムを載せていただいたことがあります。その中で、私は河合塾で小中学生対象の理科講師の傍ら、河合文化教育研究所(予備校業務とは異なる非営利部門。様々な講師が様々な研究をしている)に研究員として所属し、子どもたちと社会を結びつけるキャリア教育に力を入れている…と書いていました。
今は、同研究所で初等教育研究会を立ち上げ主宰しています。
 
 そもそも、子どもたちの学ぶ意欲は何処から来るのでしょうか。様々にあると思いますが、ひとつには自身の将来をぼんやりと考え始めた時でしょうか。
それならば、将来かかわっていくであろう社会の側から子どもたちに働きかけてもらい、学ぶ意欲を応援してもらえないだろうか…。そのように考えた事がきっかけとなり、河合塾内で子どもたち向けの講演会を開催するようになりました。講師は企業や大学等の研究者です。
 
 講演後には、講演者を囲んで何でもありの質疑応答の時間を必ず設けます。その道のエキスパートは、どんな質問にも打てば響く答えを返してくれます。講演者の大人たちは、逆に子どもたちから発せられる突飛なアイデアに喜んで帰っていかれる。
大人も子どももひとつの場を共有する…その経験が、学びの意欲を育むのではないでしょうか。
 
 さて、初めの書き出しにもどりましょう。
過去に主催した講演は様々な分野に渡り、テーマに統一性がありませんでした。多岐にわたるのも大切ですが、テーマを「宇宙」に絞るチャレンジを3年前に始めてみました。
 
 毎年、JAXAではやぶさのプロジェクトに携わっていらっしゃる吉川准教授と、NPO法人日本スペースガード協会の高橋理事長に講師としてお越しいただきました。
そして、イトカワから奇跡の帰還を果たした「はやぶさ」→河合塾で新たな小惑星を発見するプロジェクト→はやぶさ2の計画→ロシアに落下した隕石→はやぶさ2打ち上げの年…と紡いでいきました。
 
 さらに、今年のチャレンジは講師を招く講演ではなく、こちらから出向く!というものでした。
夏休みの8月28日・29日に、小中学生の親子を含め15組の参加者が集まり、スペース探偵団・名古屋と称し、JAXA(神奈川県相模原市)と国立天文台(東京都三鷹市)見学ツァーを実行したのです。
 3年前からのご縁をいただいての事でしょう、どちらの施設でも通常の見学会では見られない特別な施設見学やミニ講演会をふんだんに企画してくださり、朝から夜まで宇宙漬け。びっしりスケジュールの癒やしとなったのは、両施設で「学食のような職員食堂でご飯を食べる」でした。現役のJAXA職員とテーブルをともにするのです。特に宇宙飛行士を夢みている子どもはドキドキだったとか。
 
 高橋理事長がツァー全行程をガイドして下さいましたが、その前日までは研究のため山奥の天文台にこもっておられたそうです。その疲れを感じさせない引率ぶりを目の当たりにして、子どもたち一同は「研究者はタフでなければやっていけない」と感じたようです。
 
 また、国立天文台の野外見学中たくさんの蚊が出没し、みんなたくさん刺されました。その折、昼食をとっていたら食堂のテレビから「代々木公園で蚊に刺されデング熱」のニュースが流れ、呆然とするハプニングもありました。隣の席にいた学者らしき人が子どもたちに「ここで蚊は当たり前だよ!スズメバチにさされなかった?毒蛇も出るよ。」と教えてくれたそうです。やはり、研究者はタフでないとやっていけないのです。
 
 そんなこんなでツァーは無事終了しましたが、参加者親子には、身体を使った学びは座学では得られない達成感をもたらす…と感じ取ってもらえたようです。
 
 そして夏のツァーの約3ヶ月後、12月3日のはやぶさ2打ち上げが成功しました。
実は、私たちがJAXA見学をした日に、はやぶさ2の打ち上げ日を決定する大切な会議がJAXA内で行われていました。それ故、子どもたちにとってこの3年間のしめくくりがここにあったように感じる日でもありました。
 
 学者でも研究者でもない私は、最新の科学を子どもたちに伝える知識も能力もありません。でも、子どもたちと科学を結ぶ、そして社会に繋げるファシリテーターの役目はできるかもしれない…。これからも、私なりの実践教育の方法を模索していきたいと思います。
 
(熊崎 智子さんのプロフィール)
河合塾 小中グリーンコース理科講師
河合文化教育研究所 初等教育研究会主宰

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